序章-1
郵便ポストに珍しく手紙が入っていた。
「誰かしら?」
わたしは手に取り裏を返してみたものの宛名は書かれていなかった。四つ葉の刺繍が織り込まれた可愛いらしい生地の封筒だった。差出人に思いあたる節はなく、わたしは封筒を手に取りながら降りてきたエレベーターに乗り込んでいた。
封を開けると一枚の写真が入っているようだった。躊躇わずに取りだした写真を見た私は凍りつくようにその場で動けなくなってしまっていた。
一枚の写真は、若い頃のわたし自身だった。
ゴム革の拘束ベルトに全身を縛られて、股間や乳房を剥き出しに突き出している20代前半のわたし自身だ。写真の私は自惚れたように角度を決めてレンズに向かって微笑んで写っていた。私がまだ20歳か21歳当時にあの人の部屋で撮った写真だった。
10年振りにあの人を思い出した私は、手が震えて指の隙間から滑り落ちるように写真が落ちてしまっていた。エレベータが止まりドアが開いたが廊下に人影はなく蝉の音だけが鳴り響いていた。
人に見られる訳にはいかない。
わたしは慌てて写真を拾い逃げるように部屋に走りだしていた。十年も昔に撮った写真に驚きと恐ろしさに震えながら、この写真を撮影した男のことを思い出していた。