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「ガラパゴス・ファミリー」
【近親相姦 官能小説】

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前章(四)〜惜別T〜-7

「では、参りますか!」

 伝一郎が、快活に云い放つ──。白地の開襟シャツに黒鳶色で細身のズボン、黒の革靴と云う、東京なら凡庸と思える姿に、カンカン帽なる麦わら帽を浅く被り着ける。
 麦わら帽と云っても、百姓等の被る物とは随分と異なり、鍔は短く天辺は平らで固い。「叩くとカンカン鳴る」と、云う喩えから此の愛称で呼ばれるに至り、今では年齢や洋装、和装を問わず、男達の間で流行していた。

 片や「モダンボーイ」と、俗称された姿に変わり、もう一方は都会の女学生を連想させる出で立ち──。未だ、着物が主流を占める此の街で、二人、此れから惚れた者同士が逢い引きするが如く、饗応(きょうおう)する。
 喩え、密命の隠れ蓑と為る行動で有ろうと、伝一郎は意に介する事無く、「此れから夕子と共に、様々な体験が叶うのだ」と、胸躍らせていた。

「さあ、御嬢様。私に御手を御預け下さい。」

 自動車の旁に来た伝一郎は、突如として芝居掛かった物云いで恭(うやうや)し気な言葉を並べ立て、片膝を着いて右手を差し出した。
 伝一郎は満面の笑みから、夕子を仰ぎ見る。すると、彼女は不愉快そうに、その顔を顰めていた。

「その変な言葉遣い、辞めて下さいよ!何だか、身体中がむず痒くなって。」

 予想通りの反応に、伝一郎は苦笑する。二人で出掛けられる事を、心から楽しんでいる様だ。

「西洋では“レディ・ファースト”と云う習慣が有ってね。女(おなご)が部屋に入る場合、先廻りして戸を開けたりと手助けするのが、男の役目らしいんだ。
 だから、此の場合も手を貸して、乗り込み易く手助けしてやるんだよ。」
「へえ。外国の男の方は、随分と御優しいんですね。」
「日本の男だって、優しいさ。」
「そうですか?私には、ちっともそうは見えませんが。」

 夕子は、眇めた目で伝一郎を見つめ、刺の有る云い回しで異を唱える。

「日本人の男は照れ屋だから、人前で、此れ見よがしにやるのを嫌うんだ。人目の無い場所で、尚且つ、好きな相手じゃないと、優しく為れない物なんだよ。」
「そんな物ですかね。」
「ああ。今に君にも判る日が来るさ。」

 夕子は未だ、納得いかなかったが、此れ以上の議論は無用だと感じた。此れから始まる折角の御楽しみを、些細な事に拘わる剰り、台無しにしては勿体無いと思えたからだ。
 夕子が、差し出された掌に左手を重ねた。すると伝一郎は、涼しげな眼差しで握り返して来た。途端に、夕子の鼓動は高鳴り、顔が熱く為って行く。

「では、どうぞ。」

 乗降扉が開かれる。夕子は「有り難う御座います。」と、云い乍ら会釈し、伝一郎の握った手の側に体重を預け、座席へと乗り込んだ。

「うわぁ……。」

 座面に腰を下ろした途端、夕子は周囲を見廻し乍ら、感嘆の声を挙げた。何しろ「一生、斯様な代物に乗る機会は無い。」と、諦めていたのが、何の因果か、乗車と相成った訳で有る。その目に映る物、手に触れる物の全てが物珍しく感じ、我を忘れて自然と声が口を付いた。

「ちょっと、奥に詰めてくれないか。」

 惚けた様に車内を見廻す夕子に、伝一郎は注意を促した。すると、慌てて逃げる様に隅へと寄る恐縮振りに、伝一郎は危うく失笑しそうに為る。扉の縁にへばり付かんばかりに寄けた様が、実に微笑ましい。

「そんな、小隅に迄、避けなくても良いのに。もっと此方にお出で。」
「は、はい!」

 後部座席の狭い空間で、肩が触れ合うばかりに寄り添って腰掛けた。夕子は頬を赤らめ俯いている。

 ──ほんの数時間前迄、愛慾の極みから面前で手淫に耽り乍ら、剰(あまつさ)え、目交わい寸前に至るまで濫(みだ)りがましく振る舞っていた少女が、今又、未通女の純潔さを伺わせている。
 伝一郎は、心の中で「解(げ)に判らぬは、女心と秋の空だな。」と、呟いていた。



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