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「ガラパゴス・ファミリー」
【近親相姦 官能小説】

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前章(四)〜惜別T〜-6

「あれだけ脅しておけば、二度と不貞を働こう等と、思わないだろう。」

 一先ず、香山の件が片付いた事に、伝一郎は安堵を見せた。
 次は、貴子の転院の手助けだが、そちらは街で目立つ事が須要で、その点は夕子と一緒なら造作も無い事だと、楽観していた。

「そう云えば、恋人同士と云う設定だったな。」

 壁の置き時計に目をやると、予定の時刻迄、残り一時間を切っていた。伝一郎は「そろそろ此方も、準備に取り掛かるとするか。」と、そう独白すると洗面道具を片手に、部屋の奥へと消えた。




「こいつは魂消(たまげ)たな!別嬪さんに仕上がってるじゃないか。」

 現れた夕子の姿を面当たりにした伝一郎は、一目で丸きり魅了された様に、その頬を上気させるばかりか、締まりの無い笑顔で見詰めていた。
 
「そんなに、※4矯めつ眇めつ(ためつすがめつ)見ないで下さい!とっても恥ずかしいんですから。」

 一方、夕子は気恥ずかしさが先立つのか、後ろ向きな言葉を吐いていた。
 矢羽根模様が艶やかな群青の絣(かすり)に、幾重にも折目が入る葡萄色(えびいろ)の袴と、東京の高等学校生辺りに見る出で立ちが、好く映えている。
 何より、伝一郎が惹かれたのは、下顎の辺りで切り揃えられた艶やかな黒髪と、鮮やかな鳶色(とびいろ)の紅を挿した唇の蠱惑(こわく)さで、装飾と※5仮粧(けわい)、双方が邪魔をせず相重成る事により、得も云われぬ色気を醸し出していた。

「私達も、此の子の変わりっ振りに、とても驚いてるんです。こんなに綺麗に成るなんて……。」

 支度を手伝った重美と亮子が、溜め息混じりに感想を口にすると、伝一郎の方も「然もありなん。」と、云わんばかりに二度、三度と頷いている。

「全く。東京市中を駆けずり廻っても、此れだけの御麗人には、滅多に御目に掛かれまいて。」

 剰りの褒め様に、夕子は困惑した様子で顔を顰(しか)めると、頬を真っ赤にした。

「みんなして辞めて下さいよ!こんな高価な御召し物を着せられて、私は息が詰まりそうなんですから。」
「そう嘆きなさんな。今回、君の役割を考えれば、此の方が好都合なんだ。」

 ──一顧傾城は大袈裟だとしても、此れだけの美貌。煤だらけの街には不釣り合いな、真に“万緑叢中紅一点”と、云える程で有ろう。此れなら、誰の目も奪われてしまうのは間違い無く、当然の事乍ら、彼の新聞記者共も人塵の中で見失なう事無く、謀略も恙(つつが)無く終わると云う物だ。

「御車の準備が整いました。何時でも出発出来ま……!?」

 香山が、その肥えた体躯を汗だくにして準備完了を告げに来た所、夕子の変貌振りに肝を潰し、思わず、声を詰まらせてしまった。
 俄には信じ難い程の変わり様を面当たりにし、当初は世迷い言の如く思っていた此の謀略だが、成功へ通じる径標(みちしるべ)を見た思いがした。


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