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「ガラパゴス・ファミリー」
【近親相姦 官能小説】

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前章(四)〜惜別T〜-4

「では、今回もその病院に?」
「いえ。取り敢えず、街の診療所に御隠れ頂きまして、病院へは、夜陰に紛れて御連れしようと思っております。」
「成る程、記者の目を欺く為ですね。」

 伝一郎の脳裡に、彼の日の出来事が甦り、口の中が苦く為る──。それは、彼が小学校の卒業式を終え、初めて此の街に連れて来られた日の出来事だった。
 伝衛門と共に邸に辿り着き、馬車から降りた所で、突然、辺りの茂みから人影が飛び出して、伝一郎を取り囲んだ。

 状況を呑み込めない伝一郎は、ひたすら恐れ戦き、顔を引き攣らせるだけだった。すると次の刹那、一斉に目映いばかりの光を浴びせられたのだ。
 その後は、明確には覚えていない。伝衛門が怒号を響き渡らせると、人影は蜘蛛の子を散らす様に目の前から消え去った。それ以外で覚えてるのは、取り囲んだ人影の“憎しみを含んだ”異様な目付きだけで有る。

 後に、人影の正体が新聞記者だったと云う事。そして、扱った記事には、記者の詰問に右往左往する伝一郎の様子が事細かく描写されていたばかりか、炭鉱王で有る伝衛門が連れて来た新しい嫡子が、如何に※3知恵足らずで跡取りの資格が無い者かを、出鱈目と悪意に満ちた内容で有った事を、知らされた。

──彼の記者達は、其なりの目に遇わせてやらないと、軈ては、父さまの事業に悪い影響を与えるかも知れない。何しろ、目的の為なら平気で人を謀る連中だからな。

 伝一郎は、暫しの思案の後、全てを繋げる解決法を閃いた。

「そうだ!今日、昼から街に出掛けると云うのは、どうです?」
「えっ?どういう意味ですか。」
「ですから、僕が夕子を連れて街の散策に出掛けるんです。」

 話は簡単で有る。伝一郎が街へと繰り出し、様々な場所を散策する。それも、夕子を恋人の如く仕立て、目立つ格好で連れ回す事で記者達は大いに勘違いし、大挙して伝一郎を追い掛け回す筈だ。
 その隙に香山が貴子を専門病院に転院させれば、奴等の目を欺けると云う物で有る。
 しかし、謀(はかりごと)の概要(あらまし)を聞いた途端、香山は首を強く横に振った。

「駄目です!そんな事で、伝一郎様が囮に為るなんて、親方様が御知りに為ったら、私が叱られます。」
「構いませんよ。丁度、街に出掛けたいと思い立ち、案内役に夕子を連れて行こうと、香山さんの許しを頂く心算だった所ですから。
 それに、義理とは云え僕の母の大事でも有る訳ですから、“そんな事”なんて云い方は失礼でしょう。」
「も、申し訳ありません!しかし……街の散策なんて、どうしてまた?」

 香山は、強い疑念を抱く──。親方様の嫡子と御成りに為って五年。邸への御滞在中、一度足りとも街へ出掛けられる事も無く、学校へ御戻りに為る迄の間、ずっと部屋に隠って居らしたのが、何故、今年に限り、散策等と思い付かれたのだろうか?と。

(それが、邸に居られる日数が長い事とも、関係しているのでは……?)

 心変わりの経緯を探ろうとする香山に対し、伝一郎は隠す心算も無く、快活に答える。

「簡単です。部屋付きの女給が、歳の近い夕子に替わったからです。彼女とだったら、街の散策も楽しかろうと思えた物で。」

 余りの軽率な答えに、香山は暫し啞然と為っていたが、軈て肚の中に、ふつふつと怒りが沸き立って来た。

「し、しかし、夕子は下女ですぞ!」
「ちょ、一寸(ちょっと)待って下さいよ。何を憤慨しているのか判りませんが、今は、そんな事で云い爭ってる場合じゃないでしょう。」
「ああっと!そうでしたな。」

 怒りで我を忘れるばかりか、愚鈍なる判断力の上、俯瞰的に物事を捉えられ無い──。此れでは、物事が急転直下した場面では末端に的確な指示を出せる筈も無く、逆に、上からの命令が誤りだったとしても何ら疑念を抱く訳も無く、黙って実行するに違いない。
 長年、生活の全てを庄屋に依存して来た“小作人根性”が、今も染み付いていると云っても過言では無い。父、伝衛門が如何なる理由から香山を執事に抜擢したのか、それとなく判ろうと云う物だ。


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