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「ガラパゴス・ファミリー」
【近親相姦 官能小説】

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前章(四)〜惜別T〜-2

 幅、二間は有ろうかと云う大きな出入口を潜ると、先ず、目に付くのは稍(やや)、東を向いた南に面した部分の大半を、採光に設けた硝子窓で有る。今時分、夏の直射日光を遮る為、窓の外には白味掛かった簀(よしず)が立て掛けられ、被い尽くしていた。
 色を除けば、何処にでも有る日除け道具に見て取れる。が、然に非ず(さにあらず)。此れには、伝衛門の“もてなしの心”を具現化させる為に、業の限りが尽くされていた。

 簀を形作る一本々の細い管は、鋼から作り出された業物で、中空の管内には汲み上げられた井戸水を流す事により、床面二十畳、高さ一軒半の食堂内から熱を奪うばかりか、屋外の熱も伝え難くする事で、食堂内を凌ぎ易い状態に保つ様、施されていた。
 同種の仕掛けは食堂のみならず、百畳の床面を誇る大広間に、五つ有る客間の全てに設置して有り、客人の迎賓や滞在の折には、過ごし易い環境を提供したいとする伝衛門の思いを形にする為、試行錯誤の末に生み出された物だった。

 但し、それは飽くまでも建前で、事実は、起業家として“更なる成功”を渇望する伝衛門が、方法の一つとして軍の幹部や貴族院の重鎮等と云う、国の情勢に深く関わる者達との蜜月を継続させたいが為に、斯様な施設を必要としたので有る。
 彼にとって、前出の連中は“商売上、大切な情報源”で有り、国内外に於ける情勢の変化が有った際には、同業者よりいち早く知る事が出来る上に、何らかの舵取りが必要と為った場合、様々な“ ※1眷顧 (けんこ)”を貰える様に手配りが出来る立場の者が絶対に必要だと、確信していた為なのだ。
 出世前の早い段階から、めぼしい者を見極めて支援する“青田買い”を行う事に因って、公私に渡って出世を“金”で後押ししてやり、軈て(やがて)は伝衛門に恩義を抱く儀が生まれる様に仕向ける。
 何れ、支援者は大成すると、支援された金の何倍、何十倍もの見返りを、伝衛門に齋らし始める。伝衛門は、経験を持ってそう成る事を知っていたのだ。
 全ては田沢家の永続的繁栄を担保する為に、考案なされた物の一つなので有った。

(おっと、居たな。)

 広い食堂には、幅三尺三寸、長さ六尺程の卓台が縦に三列、横に二列に配置され、各卓台には対面式で三脚づつ、計六脚の椅子が並び置かれ、一度に最大、三十六人もの人間が、食事する事が出来る。
 邸の奉公人が六人なのに対し、剰りに不釣り合いな規模なのは、伝衛門は此処で年に数度、班長級の坑夫とその家族を招き、慰労会を催す為だった。
 催す理由としては、先の簀と同様に表向きは慰労と親睦だが、事実は、社会主義や共産思想に気触れる(かぶれる)者等、産炭の街に不利益を誘引する可能性を持つ不穏分子を炙り出す為、元小作達を班長に仕立て、※2間者(かんじゃ)として報告を受ける為で有った。

 そんな食堂の中で、香山は、一番涼しいとされる中央の窓際の席を陣取り、取り出した扇子で忙しく扇ぎ乍ら、滴る汗をハンカチで拭っていた。

「あっ!久しぶりですね、香山さん。御早う御座います。」

 快活な声で挨拶をした伝一郎は、香山の対面に腰掛けた。一方、香山は恐縮した面持ちで席を立ち上がり、背筋を伸ばして大袈裟に会釈を返した。

「お、御早う御座います。坊っちゃま。何時も、此の時間に朝食を?」
「香山さんや女給さん達と違って、僕は暇な身ですから。皆さんが忙しい時間帯に起きて来て、御手を煩わせるのは気が引けるもので……。」

 途端に、香山が顔を引き攣らせる。伝一郎の闊達(かったつ)自在な云い分には、愛想笑いをする以外、無かった様で有る。
 
「香山さんこそ、今朝は何時もと違うみたいですけど、何か有ったんですか?」

 伝一郎は手綱を緩めず、核心に迫る質問をぶつけた。すると、香山の顔が見る々、険しく為った。

「え、ええ。ちょっと野暮用が御座いましてね。」

 直ぐに作り笑顔で答え、取り繕おうとするが、その演技は実に御粗末な物で有り、子供でも嘘と見破れる程だ。


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