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「ガラパゴス・ファミリー」
【近親相姦 官能小説】

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前章(四)〜惜別T〜-15

「そいつは好都合だ!奴等の溜まり場に出向けば、僕達を追い掛けざるを得ないだろう。」
「でも、大丈夫なんですか?」
「そう心配しなさんな!それに夕子だって、ミルク・ホールが如何様な場所なのかを、見てみたいだろう?」
「それは、そうですが……。」
「よし!それでは御嬢様、参りましょうぞ。」

 伝一郎は、恭しくそう云うと、カンカン帽を少し目深に被り直し、改めて夕子に左腕を差し出した。

「また……。その変な呼び名は辞めて下さいったら!」

 夕子は、ぶつぶつと繰り言を述べ乍らも、その腕に掴まった。その表情は、真に嬉しそうで有った。





 手代に御礼を伝え、雨具屋を後にした一行は、夕子の案内にて目抜き通りを西へと進んだ。中程に差し掛かった所で、「此方が捷径(ちかみち)ですよ。」と、誘導されるまゝに、左の小径(こみち)へと入って行く。
 径は狭く、両端に垣根の如く家が建ち並んでおり、そのせいか、夏の日射しも此処まで届かない。涼風が小径の先から流れていた。
 径の向こう、二百米(メートル)程先には、小高く盛り土された上に線路が東西に走っており、街と線路の間には田圃や畑が一面に広がっている。

 今時分の田圃は緑も濃く、成長した稲は分蘖(ふんげつ)がしっかりと出穂して、後、数日も経てば、朝の僅かな時間帯に、儚くも白な花を咲かせる事で有ろう。
 田圃の水は、駅向こうから渡って来る熱を帯びた風を冷まし、小径に届く頃には涼風と為って、辺りの熱波を和らげている。即ち、田圃は人間や様々な生き物を夏の暑さから守る為に、一役勝っているのだ。

「ほら、彼処ですよ。」

 夕子が差し示す方向には、丁度、家並みが途切れ、その向こうの田圃が広がり出す間(はざま)に、小さな洋風の店屋が建っていた。
 軒上には、彼方此方(あちこち)が朽ち果てて煤けた、古めかしくも立派な看板が鎮座し、看板には白地に黒文字で「ミルク・ホール」と記されている。

「自称、インテリゲンチャ風情が屯(たむろ)する場所だと云うから、もっと立派な場所かと期待してたんだが、些か、拍子抜けだな。」
「元は、新聞縦読所だったと聞いています。」
「成る程。そういう理由か。」

 店の大きさは、※11炭鉱長屋一軒分程だろうか。ホールと称する割に店の規模が小さいのは、ミルク・ホールの前身の新聞縦読所に由る部分が過分で有る。
 新聞縦読所とは、その名の通り官報や新聞を無料で読める場所の総称で、その誕生は、明治中期に迄遡る。未だ、新聞購読が人々に定着していなかった時世。購買者拡充を目的にと、各新聞社が共同で設置したのが最初で有る。

 開設して暫く経つと、縦読所に集どう者は、三十歳未満の若者が大半を占めていると判ったのだ。
 その頃、時の明治政府は、外国人との体格差、並びに疾病率等の医学的見地から、国民に於ける栄養状態を憂慮し、その改善策の一つとして牛乳の飲用を推奨した。そこで、大勢の若者が集まる新聞縦読所に白羽の矢が立った。
 同所で牛乳販売に携わった事が、後にミルク・ホール発祥の切っ掛けと成ったので有る。

 軈て、ミルク・ホールは東京を発祥地として全国へ広がり出すと、様々な体系へと変化して行った。
 集客拡大を狙って牛乳以外にも、珈琲やラムネ、それにケーキにパン等と、軽食を取り扱うホールも出現し、それに伴って、単なる配膳係でしかなかった女給を愛想を振り撒く様に仕立てる等、パーラーや珈琲店と云う既存の店と競合する様な、変化をした店が続々と表れたのだ。


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