出会ってしまった-1
暑い夏の名残の夕凪が坂出の街を包んでいた。
仕事を終え、友人二人と食事を済ませ中本エリカはおしゃべりを楽しんでいた。
「なぁ、エリカ、次のお休み予定あるん?」
友人の不躾な質問に少し気分を害しながら、顔に出さないように気を付けながら、エリカが答えた。
「次のお休み?ちょっとした用事があるわよ。ウフッ。」
チョッとした用事という言葉に、沙保里が反応したように、
「あら、エリカ、彼氏が出来たの?デートでしょ?いいわねえ、独身は自由で、うらやましいわ。」
「えっえぇ!彼氏出来たの、エリカ!そっかぁ、エリカにも春がきたんねぇ。うちらの中で、浮いた噂がないのは、あんただけやったもんねぇ。よかったぁ。」
沙保里につられたように、美桜が本当に嬉しそうに言うと、
「うん、ありがとう。まだはっきりとは、告白されてないんだけどね。ウフフ。」
(沙保里も美桜も、旦那がいるからって、いい気なもんねぇ。適当にあわせとこ。)
実のところエリカには、彼氏などいなかったが友人と会うと同じことを聞かれるのが、苦痛に感じていたので、沙保里の勘違いを利用することにしたのだった。
「そろそろ遅いから、お開きにしない?」
「えっ、もうそんな時間なん?いやっ、ほんまやわ!はよ帰らな、旦那がまってるわ。」
美桜と沙保里が同時に立ち上がり、慌ただしく三人は店を出て駐車場へ急いだ。
美桜の車に三人が乗り、十分ほど走り、エリカの家の前で止まった。
「ありがとう、美桜。また、連絡するけんね。お休みぃ、気をつけてなぁ、ほな。」
「うん、ほなねエリカ。彼氏、うちらにも紹介してなぁ。ほなね。」
ゆっくりと車を見送りながら、エリカは別の想いに捕らわれていた。
(どうしよっかな?ちょっとだけなら、かんまんかな?ホンマにチョッとよ。)
自分自身に言い訳でもするような思いながら、エリカは携帯をチェックしていた。
(えっ、うそっ、やめるって、これ、ホントなん?)
それは、ある小説サイトの作家のお知らせのページだった。
しばらく前からエリカは、この作家の書くケータイ小説を読んでいた。
小説はSM小説で、エリカの心の奥底に秘めたモノを刺激し、目覚めさそうとしていた。