光の風 〈聖地篇・序章〉-9
不幸な事故と誰もが泣いたが、カルサは自分を責めずにはいられなかった。
更に第二継承者であるサルスの父、前王の弟にあたる人物は流行り病にかかり病死してしまった。
取り残された二人は力を合わせていくしかなかった。カルサのカリスマ性とサルスの完璧なサポートで、周りに潰されないように戦う日々。
気付いたらもうこんなにも月日が流れていた。
「早いもんだな。」
そう呟いて、カルサは懐かしむように笑う。サルスも同じ様に笑った。
「そうだな。いつのまにか…こんなに時が経ってしまった。」
思い出は決していいものではない。耐えぬく日々、何度も限界に立ち、支え合った。
カルサにとってサルスは最高の秘書官だった。
「お前がいたから、ここまで来れた。」
カルサは身体ごとサルスと向き合い、右手を差し出した。
「ありがとう。」
今までの想いをカルサはその一言に込めた。
王位についてからは国外に出ることもなく、ひたすら国と自分の中で戦って生き抜いてきた。
そんなカルサが、明日からしばらくはいない。
サルスに全てを託して、自分のやるべき事をやる為に歩きだす。
この握手は終わりと始まりの合図だった。
「こっちのセリフだ。」
サルスは思わず吹き出してしまう。思い返せば、いつも二人でいた。その時代に幕を閉じる。少し淋しくて、嬉しい思い。
「ありがとう。」
サルスはカルサの手をしっかりと握った。二人だけに伝わる想いがある。
「行ってこい、無事に帰ってこいよ!」
「ああ、もちろんだ。」
もう一度かたい握手を交わし、カルサは部屋を出た。
いつもの様にサルスはその後ろ姿を見送る。しかしその瞳は今までとは違っていた。
前を向いて進んでいくカルサも、それは同じだった。
「カルサ!」
中庭に面する廊下を歩いていると、下からカルサを呼ぶ声がした。下を覗くと聖が立っている。
「お前にしては珍しい所にいるな、聖。」
「アホ。自分探してたんや。皆がこっちの方に叫びながら歩いて行った言うもんやから、はっとったんや。」
中庭に聖は確かに異色な組み合わせではあった。聖は呆れながら、カルサを見上げる。
「オレを探してたのか。今行く!」
そう言うとカルサは手摺りに足をかけ、二階から飛び降りた。まるで風を操るかのように、ゆっくりと地面に降り立つ。