光の風 〈聖地篇・序章〉-6
もうどのくらい経ったのだろう。
私室にもサルスの姿はなかった。書斎、王座の間、会議室、思い当たる節はあたってみたが、どれも外れていた。
(珍しいな。)
サルスが見当たらないことが珍しい、と思った瞬間、カルサは考えを改めた。
居ない事が珍しいのではない、カルサがサルスを探すことが珍しいのだ。
時間がもったいない。仕方なしに、カルサは荒療治に出た。息を深く吸い、腹の底から声を出す。
「サルス!サルスはいないか!?」
大声で叫びながら早足で移動する。カルサが声を荒立てながら人を探すのは非常に珍しい様子だった。
カルサが声をはる事自体が珍しい。
廊下に響き渡る声。すれ違う者すべてが驚き、国王の行動を見守った。
「サルス!いないのか!?」
叫び続ける国王の姿に誰もが不安を覚え、乱心したと思い、辺りに緊張が走った。
少しずつ辺りが騒めき始める。おろおろしだす女官も現れた。
そんな張り詰めた空気を抜くかのごとく、ゆるい声が入り込む。
「あんれ〜?何やってんの、カルサ。」
ゆるい声の主に一斉に視線が集まる。一歩遅れでカルサも声の主を確認した。予想どおりの人物。
「おう、貴未か。」
貴未の登場によって、緊張の糸がぷつんと切れた。予想外にもカルサは普通に対応している。
そこにいる誰もが唖然としていた。
「なんか騒いでると思ったら…ついにご乱心?」
「サルスを探している。見なかったか?」
「いんや。見てない。」
直球に核心を突く貴未の質問に皆が冷や汗をかいたが、二人には普段どおりの会話だった。
調査員という仕事の貴未は、城にいる間は基本的にふらふらしている事が多い。
その貴未が知らないと言うのなら、いよいよお手上げかもしれない。考え込むカルサに、またもや貴未はあっけらかんと爆弾発言をした。
「いいじゃん。そのまま叫んでれば、いずれ見つかるっしょ?」
マジで!?
その場に居た者、全員が一丸となって心の中で叫んだに違いない。
「その方が早いな。」
ため息まじりにそう言って、カルサは再び叫びながら先に進んでいった。誰もが無言でカルサの後ろ姿を見送る。
「なんだ、全然狂ってないじゃん。みんな心配性だなぁ。」
貴未は通りすがった際、女官にカルサが乱心したと泣き付かれて姿を現したのだった。しかし実際行ってみれば、見つからない秘書官を手っ取り早く見つけようとしているだけだった。