光の風 〈聖地篇・序章〉-5
「なんか、デートみたいじゃない。ね?」
やっと言葉の意味に気付いたカルサは、一瞬で顔を赤く染めた。まさかそんな風にとるとは思わず、急に恥ずかしくなってくる。
「お前…そんな事言うなよな!」
照れ隠しからか、思わず抗議の言葉が漏れる。リュナは謝りながら両手で顔を隠し照れていた。
傍からみると、ただのバカップル以外の何者でもない。
「サルスの所に行ってくる。とにかく、明日からだから用意しておくんだぞ?」
「はぁい。」
リュナの幸せいっぱいの声と表情に幸せを感じながらカルサは私室をあとにした。
顔のゆるみが取れないままサルスの所に向かう。しかし、それもすぐに苦い表情に変化してしまった。
実際はそんなに楽しいものではない。御剣の総本山、それがどんな物かリュナは知らない。
どういう意図でそこに行くのかも彼女は知らない。
「デート気分で行った方が楽しいぞ?」
「千羅…覗いてたな?」
姿は見せず千羅はからかい目的でカルサに話かけた。思わずカルサも牙を向く。
「聞こえてきただけ♪いいじゃん、デート。」
「阿呆。そんな気分で行く所でもないだろう?」
めずらしく顔を赤くしたままカルサが返してきた。今まではほとんど冷静に返してきたのが、リュナ関係になるとどうやらそれはできなくなるらしい。
滅多に見れない表情に千羅はおもしろくなった。声を殺して笑っているとふいにカルサの呟きが聞こえてくる。
「そんな気分なんか味わえる場所じゃない。味わう場所でもない。」
その言葉に千羅も表情を曇らせる。吐き捨てられたその言葉にどんな思いがあるか、千羅は痛いほど知っていた。
カルサの目がどれだけ冷たくなっているかも知っている。だがあえて千羅は明るくカルサに切り返した。
「そりゃお前一人の話。リュナと二人で行くんだからデートでいいじゃん。お前さ、頭固すぎ。」
「うるせ!」
千羅の切り返しにカルサも乗ってきた。一度沈んだ気持ちを回復させ、足はサルスのもとへ向かう。
改めて千羅はリュナの存在の有り難さを痛感した。彼女がいることでどれだけ笑顔が増えたことか。
しかしリュナはそんな事知らない。千羅、瑛琳の存在さえ、未だ彼女は知らないのだから。
千羅はカルサの後ろ姿を見送り、静かに姿を消した。