光の風 〈聖地篇・序章〉-10
「優雅やな。」
「で、用とはなんだ?」
人間離れした力を目の当りにすると、やはり御剣なのだと聖は再認識した。以前、魔物を結界内に送り込んだあの少女も宙に浮いていた。
彼女も御剣、もしくはそれ同様の力の持ち主なのだろうか?
そんな疑問がよぎったが、聖は頭の中に留め本来の用事を済ますことにした。
「魔物を送り込むために壊された結界は直しといた。用心の為に他のとこも見てまわるわ。」
聖の報告にカルサは頷いた。そして考え込む。まさかの事態、自分の詰めの甘さを痛感した。
「あれだけの時間をかけてもらったのに、すまない。」
軍隊の遠征の第一目的は結界を張る事だった。大地からのエネルギーが高い場所を探し、そこに結界石を埋め、それを媒体にして結界をはっていく。
結界士の聖と紅奈の特務だった。
「場所は分かっとるさかい、そない時間はかからん。きっとオレらの作り方が悪かったんや。すまん、完璧にする。」
頼もしい言葉だった。結界はだいたい集落ごとにはり、最終的には城を中心とした大きな結界になる。
完璧に仕上げれば、カルサ不在の間、立派な防御壁になる。そしてこの先の大事な守りにもなる。
「聖、オレはしばらく留守にする。」
「なんでや?」
「やるべき事があるんだ。留守中、国の守りを頼んだぞ。」
カルサの真剣な目はまっすぐ聖をとらえた。強い意志を宿した瞳。いつもの相手を威圧する瞳とは違うが、強くひきつけるものがあった。
聖は余裕の笑みで任せろと言い、その場を去っていった。
カルサは頼もしい仲間の後ろ姿を見て、また自分も背を向け城に向かって歩きだす。
旅立ちは明日、それぞれの思いが交差をする。
「皇子。ただいま戻りました。」
その日の夜遅く、照明を落としてカルサは月を眺めていた。ベッドに座っていると、視界の端に人影が移る。
「瑛琳か。どうだった?」
「見つけるには見つけたのですが…確証はありません。しかし可能性はかなり高いかと。」
「場所はどこだ?」
「結界士と同じ場所にて。」
淡々と結果報告を済ませていく。そしてもうひとつ、人影が移る。