エドガルドの欲しいもの-4
サラリと、彼の指に髪をかき上げられ、リュネットの心臓が大きく跳ねた。
「エド?」
「怪我が治る頃には、お前は俺が帰ると笑顔で飛んできてくれるようになっていて……それが嬉しかった。部屋に帰るのが楽しみになって、自分が欲しかったものを初めて知った。お前を他所に預けるのではなく、街で一緒に暮らそうかとも思ったが……」
一瞬、エドガルドは言葉を詰まらせてから、眉を潜めてため息をついた。
「どうしても躊躇ってしまった。お前が魔族の俺に懐くのはここに囚われているからで、自由になれば人間の家族を欲すると思ったからな」
悲しそうに言ったエドガルドの気持ちは、彼ほどの苦労も孤独も知らない自分には、全て理解できないだろうと思った。
けれど、無人の家に帰る寂しさなら、リュネットも知っている。
まだ一座の皆と暮らしていた頃、うっかり遅くまで遊んでいると、誰かが必ず探しに来てくれた。
危ないと叱られて拗ねた事もあった。自分が帰らなければ、心配してくれる人がいるというのを、当たり前に思っていたのだ。
ここに来て少ししてから、エドが初めて街に出かけた時。何日も一人きりの部屋で暮らしたら、あれがどんなに幸せだったのか思い知った。
「……一人で暮らすのが好きな人もいるだろうけど、私は苦手。エドもそうだったの?」
十年近くも一緒に暮らしていながら、初めて知った彼の気持ちを確認すると「ああ」と頷かれた。
「いつまでもこの暮らしが続けば良いと思っていたが、俺は成長したお前を、保護する子どもではなく女に見て、愛しかたを変えたくなったのに気づいた。これ以上一緒にいれば、お前が逆らえないのを良い事に、無理にでも番にしたい衝動を抑えられなくなりそうだった……」
こちらを見つめるエドガルドの両眼が、やけに熱っぽい。男女の事柄に疎いリュネットでも、本能的に情欲が篭っているのだと察した。
彼の手がリュネットの顎にかかり、唇をキスで塞がれる。
「んっ」
どうしていいの解らず、口と目をきつく閉じて息を詰めていると、唇が少しだけ離れた。
エドガルドが低く笑い、何度も頬や唇にキスを落としながら、囁かれる。
「リュネット、可愛い事を言ったお前が迂闊だったな。首輪を外した後も、お前を一生捕らえておくと決めた」
「え……?」
首輪を外した後も? と、尋ね返すより早く、唇を合わせられる。ぬるりと唇の隙間から入り込んだ舌が、リュネットの口内を舐めまわす。
歯列を丁寧になぞられ、。絡まる舌の感触と湿った音に背筋が震えた。