エドガルドの欲しいもの-2
「それは……」
気まずそうな声を発し、エドガルドが視線を彷徨わせた。額に手を当てた彼が、困り切った様子でため息をつく。
「これ以上、お前に軽蔑される事を白状したくはなかったんだが、全て自分がまいた種だな……リュネット。もう首輪を外して手放すしかないとようやく決意できたのは、成長したお前を、俺が子どもに見れなくなったからだ」
「子どもに見れない?」
「つまり……お前を口説いて抱きたいと思うようになってしまった。そんな想いを抱くのは、お前に悪い事でしかないと知りながら……」
苦渋の籠る声で告げられ、リュネットはまたもや目を見開いた。
たちまち、自分の頬が赤くなっていくのを感じる。
「そっ、そんな……」
悪いわけなんかない。だって私もエドガルドが大好き――そう言おうと思った瞬間、ふと背筋に冷水を注ぎ込まれたような気がした。
エドガルドが好きだなんて、リュネットは日頃から言っている。先ほども、首輪が外れなくても良いと思うのは彼が大好きだからだと、告げたばかりではないか。
すると、エドガルドはそういう意味で『悪い』と思っているのではない?
(もしかして……)
己の首に手を添え、ヒヤリと冷たい汗が背筋を伝うのを感じた。
今の話を聞けば、王女がエドガルドを好きだったのは明らかだ。
そうでなければ、護衛など幾らでも取り換えられるのに、エドガルドへ文句を言いながらも行動を改め、固執などしないはず。
王女にしてみれば、エドガルドは彼女と真摯に向き合ってくれた、ただ一人の存在だったのだろう。
王は娘を甘やかすだけで周囲も漫然とそれに倣っていた中で、エドガルドだけが王女に、このままでは彼女が困るのだと教え、根気よくつきあってくれたのだ。
だから王女は、結婚など嫌だとエドガルドだけに八つ当たりした。
彼と結ばれるなど許されない立場であっても、感情が耐えられなかったのだと思う。
そんな王女の想いに気づいたレンシア国王は、せめて恋しい男を解放し遠ざけろと、首輪の外し方を彼女に吹き込んだのでは……?
(それに、この首輪を大事に持っていたなんて……エドも本当は、王女様を……)
エドガルドは、王女に愛されているとまるで気づいていなかったようだ。
身分の差もあるうえに、いつも自分を困らせる相手から好意を寄せられているとは、思えなかったとしても無理はない。
先ほどの、彼の王女に対する評価は辛辣なものだった。
でもエドガルドは、王女から受け取った首輪と腕輪を、ずっと大事に持っていたのだ。普通なら、忌まわしい屈辱の思い出でしかない品のはずなのに。
それなのに大切に持ち続けていたのは、王女を腹立たしく思いつつも、忘れられない相手だからでは……?
先ほど、劇での王女が本当は護衛の豹人の方を愛しているのではないかと言った時、やけに動揺していた彼の様子を思い出す。
(今でもエドは、王女様と過ごした時の事をしっかり覚えているみたいだし……)
ドクドクと、心臓が不穏な音を立てて、苦い唾が沸く。
彼と過ごしてきた今までの日々が、脳裏に次々と蘇る。
エドガルドは、女の子の扱いが上手かったわけだ。
我が侭な王女様が十歳の頃から護衛を務めていたという。リュネットがここに来た年頃と対して変わらない。
王女の成長を見守りながら、どんなもの喜ぶのか、よく覚えていたのだろう。
リュネットに対しても、成長するにつれて変わる好みを普段からよく察知し、毎年の誕生日にだってとても素敵な贈り物をくれた。
リュネットの髪を、綺麗な色だと褒めてくれた事もある。王女と同じ髪の色を……。