我が侭王女と生意気護衛-1
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――エドガルドは、この豹人の聖地にある泉ではなく、他の生まれだという。
通常、魔族の泉は一種の魔物しか産まないが、その人間の王家が占拠していた泉は、様々な魔物をランダムに生み出す特殊な泉だったのだ。
そこで生まれた魔族はすぐに捕らえられ、王家所有の奴隷となるか、他所で売られる。
豹人は希少な魔族の上に、珍しい黒い毛並とあり、エドガルドは服従の首輪をつけられて王の一人娘マリアンヌ王女の護衛を務める事となった。
王女が珍しい黒豹人の奴隷を見て、それを気まぐれで欲しがったからだ。
マリアンヌ王女は、当時十歳。
冬の月光を思わせる淡い色の金髪と空色の瞳をした、並ぶ者のいないほど美しい少女だったが、非常に傲慢で我が侭な性格だった。
王が、亡き王妃にそっくりの娘をひたすら溺愛し、周囲も王の機嫌を損ねまいとして、王女を甘やかしたせいもあるだろう。
誰も王女の我が侭を窘めず、その場しのぎで宥める。
教師もその調子で、王女が勉強をさぼるのは、直属護衛のエドガルドがしっかりしていないからだなどと責任をなすりつけるのだ。たまったものではない。
その他にも、王女は悪ふざけで召使を困らせるなど、やりたい放題。
しかも、それを手伝えと命じられ、エドガルドはさすがに怒り心頭で断った。
言う通りにしないなら首輪で死ぬまで苦痛を与えると、王女は脅したが、バカげた命令に従わされるくらいなら死んだ方がマシだと思い、いつもそう言い返した。
王女へ仕えてすぐ、面白半分で苦痛を与えられた事があり、どれほど酷かったかは覚えている。エドガルドの凄まじい絶叫に、王女の方が怯えてすぐ止めたくらいだ。
王女はあれが、相当に怖かったようだ。
魔族奴隷のくせに逆らうなんて生意気だと喚き、エドガルドを小さな手足で蹴って叩いて苦しめると口で脅しはしても、彼女が首輪で苦痛を与えた事はそれきり一度もなかった。
この我が侭娘に、ただ優しい気持ちを持てと諭しても無駄だと、エドガルドは考えた。
勉強をさぼればいずれ王女自身が恥をかくのだという事や、陰で忙しく働いている召使を困らせれば、王女の快適な生活に支障が出るなどと、根気よく教えた。
無理な我が侭を聞かない代わりに、許容範囲の我が侭なら聞く事と、王女が良い振る舞いをすれば大いに褒める事を約束した。
生意気な護衛に自分を褒めさせるのは、王女も気分が良かったのだろう。時に不貞腐れつつも真面目に授業を受け、召使を困らせもしなくなった。
……代わりに、エドガルドには許容範囲内の限りに我が侭を言いまくっていたが。