14.エピローグ-1
「何だよ、急に俺たちを呼び出して」
健太郎が眉間に皺を寄せて、テーブルの反対側に座ってにこにこ笑っている真琴を睨んだ。
真琴は黒いスーツ姿だった。9月の21歳の誕生日の明くる日、彼女は仕事帰りに『シンチョコ』に立ち寄り、真雪と健太郎を呼び出したのだった。
「どう? 仕事はもう慣れた? マコちゃん」健太郎の隣に座った真雪が言った。
「うん。看護師長さん、とっても親切で、あたしも気兼ねなく働ける」
「あなたの病院に入院してた人がお店にやってきてね、言ってたよ、マコちゃんのこと」
「え? 何て?」
「すっごく明るく接してくれる看護師の女の子がいて、自分はいつもその子に元気をもらってた。お陰で予定より早く退院できたって」
「あたしのこと?」
真雪はうなずいた。
「おまえのその性格に合ってるんだよ、看護師っていう仕事」
健太郎が微笑みながら言った。
ここシンプソン家のケネス、マユミの間に生まれた健太郎、真雪の双子の兄妹は25になっていた。二人ともすでにそれぞれのパートナーと結婚している。
「でも、確かおまえ、将来は先生になる、とか言ってたのに、結局看護学科のある高校に進学したよな。何かあったのか? 考えを変える転機みたいなのが」
「そうねえ、お父さん見てて教師は大変だって解ったことが一番かな。看護師も同じように人と接する仕事だし、お母さんにも勧められた」
「なるほどね」
「真雪お姉ちゃん、お腹の赤ちゃんは順調?」
「うん。もう安定してる」
真雪は自分の下腹をさすった。
「さすがに双子ちゃんだけあって、お腹、大きいね。予定日は12月だったよね?」
「そうよ」
「大事にしてね」
「ありがとう」
真雪はカップを持ち上げた。
「で、俺たちに何か話したいことが? 真琴」
健太郎が促すと、真琴は身を乗り出し、目を輝かせて大声で言った。
「そうそう、聞いて聞いて、ケンお兄ちゃんに真雪お姉ちゃん。ショッキングなニュースなの。あたしの人生で最大の」
「ショッキングって言ってる割には、嬉しそうね」
真雪は呆れたように笑った。
「どんなニュースなの?」
「少し落ち着いて話してくれ、真琴」健太郎が言ってコーヒーをすすった。
「あたし、お父さんの子じゃなかったの」
ぶーっ!
健太郎は派手にコーヒーを噴いた。
「な、何ですって?!」真雪は驚いて思わず立ち上がった。
「ね、すごいでしょ?」
真琴はにこにこ笑っている。
「い、いや、すごいってマコちゃん……」
「ちょ、ちょっと待て、そ、それって一体……」
健太郎が焦りながら言った。
「あたし、お母さんと誠也にいちゃんの娘なんだって。昨日教えてもらった」
健太郎、真雪兄妹は絶句して目を皿のように見開き、固まった。
「あたしもねー、怪しいとは思ってたんだよ。お母さんと誠也にいちゃん、妙に仲良しでさあ、よく手を繋いでるし、台所でいちゃついたりしてるし」
健太郎がようやく口を開いた。
「せ、誠也さんって、確か数年前に英明おじさんの養子になったんだろ?」
「そ。養子縁組でね。だからその段階であたしと誠也にいちゃんは兄妹になってたわけ」
「それがいきなり誠也さん、マコちゃんのお父さんだって明かされたわけなの? 意味がよくわからないんだけど」
テーブルに肘を突いて顎を支えた真琴は、夢みるように天井を見上げて語り始めた。
「その昔、MとSが出会った。運命の出会いだった。Mは24、Sは22」
「それが美穂おばちゃんと誠也さんなの?」
「そ。その時二人の間に火花が散って、急接近」
健太郎が眉間に皺を寄せて言った。
「火花っていうのは、普通敵対する者同士の間で散るもんなんだよ、真琴」
真琴は構わず続けた。