14.エピローグ-3
「でも、こんなワイドショーみたいな話、よく娘のマコちゃんに聞かせてくれたね」
「いつか話さなきゃ、って三人とも思ってたらしいんだ。でもあたしちょっと勘づいてた」
「そうなのか?」
真琴はうなずいた。
「あたしが中学を卒業する間際に、一階の北側に一部屋増築して誠也にいちゃんが一緒に住み始めたの、知ってるでしょ?」
「ああ、そうだったね」
「あれから時々その部屋から貪り合うエッチな声が聞こえてきてたんだ」
「盗み聞きしてたのか? おまえ」
健太郎がまた顔を赤くして責めるように言った。
真琴はにっこり笑ってVサインを出した。「年頃だったから」
「ショックじゃなかった? マコちゃん」
「うん。お母さんに誠也にいちゃんを盗られて大ショックだった」
「いや、そうじゃなくて、自分の母親が父親じゃない男性と、その、エッチしてる事実を知ったことでだよ」
「そうねえ」真琴は割に涼しい顔で頬をぽりぽりと掻いた。「まあ、大人だし、そんなこともあるかなって」
「何だよその軽い反応」
「初めは誠也にいちゃんがよそから誰か知らないオンナを自分の部屋に連れ込んでエッチしてるのかって思ってた。そっちの方がショックだった」
「ふむ……」
「でも、相手がお母さんだってわかったら、なんか安心できちゃったんだ」
「どうしてわかったんだ? まさか覗き見してたとか」
健太郎は怪訝な顔で真琴を睨んだ。
「いつかチャンスがきたら覗いてやろうとは思ってるけどね」
真琴はウィンクをして笑った。
「あたしが高二の時だったっけか、下でお風呂に入ってたら、まさにその最中の声が聞こえてきたわけ」
「ど、どういう?」
「息を殺して耳を澄ましてたら『誠也、誠也、来て』『美穂、イく、出、出る』って。もう丸聞こえ。あの二人盛り上がってくるとお互いの名前を大声で呼び合うの。増築した部屋は厳重な防音処理が施してあるはずなのにまるで効果なし」真琴は笑った。「それからも度々あたし隣の部屋で盗み聞きしてたもん。また繋がって一つになってお互いの身体を貪り合ってる、ご盛んだこと、って」
真雪も健太郎も真っ赤になって言葉を失っていた。
真琴はひょいと肩をすくめた。「まあ、あの二人歳も近いしね。一緒に住んでたらそんな気になるのかな、ぐらいに思ってたんだよ」
「おまえ、理解のあるよくできた娘だな」
「ありがと」
「こういうのを『理解がある』っていうのかな……」真雪は頭を抱えた。
そこまで言って、真琴はようやく目の前のココアを飲んだ。
「ぬるくなっちゃったでしょ? 入れ直そうか?」真雪が言った。
「大丈夫。あたし猫舌だから。パパと一緒で」
「パパ?」
「あたし、昨日この話聞いてから、誠也にいちゃんのことをパパって呼ぶことにしたの。お父さんは今まで通りお父さん」
「羨ましいな」真雪がにっこり笑ってカップを手に取り、言った。「マコちゃんのことを愛してくれるお父さんが二人もいるんだね」
「お父さんとも、もちろんパパとも血が繋がってるしね」
真琴は二人の父親譲りの愛らしく垂れた目を細くしてあははと笑った。
「でも一つ気がかりだったのが『真田誠也』の扱い」
「扱い?」
「あたしにとっては実のパパでも戸籍上は家族じゃないわけでしょ? でも一つ屋根の下に住むわけだし。元々お父さんとパパとは親族なんだから、もういっそのこと家族にしちゃえってことで彼は養子になって『増岡誠也』になったんだよ」
「確かに誠也さんは一人だからね。ご両親は二人ともいらっしゃらないし」
「実はね、誠也にいちゃんをお父さんの養子にしてくれ、って頼んだ人がいるの」
「頼んだ人?」
「そう」真琴は静かに目を閉じた。