13.デザートは甘いリンゴで-4
「せ、誠也、あたし今日は早い……かも」
切なそうな顔で美穂が言った。
「いいよ、一緒にイこう」
美穂は腰を上下に動かし始めた。すぐに彼女は大きな声で喘ぎ始めた。「熱い、熱いっ!」
「美穂、美穂っ!」
誠也も美穂の動きに合わせて腰を上下に跳ねさせた。
ベッドがぎしぎしと激しく軋む。
はあはあという荒い二人の息づかいが部屋の空気をかき乱す。
「イ、イっちゃう! も、もうだめっ!」
「お、俺も、美穂、美穂っ! イ、イっていい?」
「来て、誠也、あたしの中に来てっ!」
二人の身体が同時にびくんと跳ね上がった。
そして美穂は細かく全身を震わせながら恍惚の表情で目を剥き天井を仰いだ。
「誠也! 誠也っ!」
「美穂、美穂っ! イく、 出るっ!」
誠也の身体の中から噴き上がった熱いマグマが、勢いよく美穂の身体の中心目がけて、その脈動と共に放出された。
どく、どくどくっ!
「やーっ! 中に、熱いのが来る!」
美穂は叫び、そのまま誠也の身体に倒れ込んだ。そして恍惚の表情でその身体を抱きしめた。
美穂も誠也もなかなか息が収まらなかった。
「今日は激しかった……」
誠也が言った。
ふふっと笑って美穂が言った。「だからお仕置きっていったでしょ?」
「真琴ちゃんに弟か妹を作ろうか?」
「何調子に乗ってるの。あいにく今は安全期」
「ちぇっ」
誠也はそう言って美穂の頭を引き寄せ、キスをした。
誠也はベッドの足下に蹴りやられていた布団を広げて美穂の身体に掛けた。
「美穂、君に貰って欲しい物があるんだ」
誠也はそう言ってベッドから降り、ソファのセンターテーブルに置いていたボディバッグを開けて、中から小さな箱を取りだした。
「これ。開けてみてよ」
身体を起こし、誠也からその箱を受け取った美穂は、そっと蓋を開けた。中には少しくすんだ色をした白いフェルト地のケースが収まっていた。
「ジュエリーケース……」
「お袋の形見」
「お母さんの?」
「結婚指輪らしいよ。内側にイニシャルが彫ってある」
美穂はケースの蓋を開け、中から取りだしたその銀色のリングを手のひらに載せて、目を近づけた。
「H & Y これ、お父さんとお母さんのイニシャルなの?」
「うん。たぶんそう。お袋の名前は初江で、おやじは裕也だからね」
「大切な物なんでしょ?」
「しまい込んでおく方がもったいないよ。一応プラチナだし。でも、」誠也は申し訳なさそうな顔をした。「たぶん美穂には大きすぎる」
「そう?」
「お袋の手、ごつかったから」誠也は笑った。「君の足の親指にならぴったりかも」
「なにそれ」美穂も笑った。
「近いうちにチェーンを買ってあげるからさ、そのリング、ペンダントにでもして使ってよ」
美穂は上目遣いで誠也を見た。
「これ、あなたからの結婚指輪、ってことなの?」
誠也はばつが悪そうに頭を掻いた。「や、やっぱり自分で買わなきゃだめだよね?」
美穂はおかしそうに言った。「お母さんはそう仰ってると思うよ」
「だよねー」
「でも、」美穂はそのリングを自分の左手の薬指にはめてみた。確かにサイズが合わずにそれはゆるゆるだった。「誠也の愛するお母さんの持ち物だから、それ以上の価値はあるね。ありがとう。大切にする」
「よかった……」
誠也は美穂の空いた右手を取り微笑んだ。
「近いうちに一緒に選びに行こうよ、指輪」
「嬉しい」
美穂は幸せそうに微笑みを返した。
美穂の身体を再びシーツに横たえ、布団を掛けながら誠也は言った。
「俺、ずっと君のリンゴでいいや」
「え? 何、いきなり」
誠也もその布団にもぐり込み、美穂の背後から身体を密着させた。
「美穂にとって、俺はデザートのリンゴ」
「何よそれ」
「英明叔父さんが主食。俺がデザートってことだよ。それでいいでしょ?」
「そういうことね」美穂は笑った。「納得。食事で足りないビタミンをデザートで補給ってことね」
「ちゃんと叔父さんからも栄養をもらってね」誠也は微笑んだ。
「わかってる。じゃああたしはキーウィかな」
「キーウィ?」
「リンゴとずっと一緒にいて、甘く柔らかくなっていってるもの」
誠也は嬉しそうに笑いながら、背中から回した手で美穂の二つの乳房を包み込んだ。
「誠也、」背中から抱かれたまま、美穂は静かに言った。「リンゴは人を健康かつ幸せにする果物だ、っていうのは本当だったね」
美穂は誠也の手をほどき、身体を振り向かせて額同士をこすり合わせた。そしてすぐ目の前にあった誠也の鼻をぺろりと舐めた。「デザートいただき」
そして目を涙で滲ませ、微笑みを返しながらその身体を抱きしめた。
「もうあたしの方がすっかりリンゴ依存症」