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デザートは甘いリンゴで
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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11.赦し-1

 職場の送別会のあった次の水曜日、近くのスーパーでリンゴを一袋買って帰った英明は、夜、娘の真琴が二階で誠也と勉強している時間に茶を飲みながら美穂と食卓で向かい合っていた。
 「なんでリンゴなんか買ってきたの? 珍しいね」
 美穂が言って自分の湯飲みを持ち上げた。
 「君も毎週買ってきてるじゃないか。決まって水曜日に」
 英明は言った。そして袋から一個のリンゴを取り出し、両手のひらで包み込むようにした。
 「リンゴは誠也の大好物。ヤツは小さい頃から果物はリンゴしか食べなかったんだ。君も知ってるんじゃないのか?」
 意味深長な英明のその言葉に、美穂は胸騒ぎを覚え始めた。

 その時真琴との勉強を終えた誠也が階段を降りてくるスリッパの音が聞こえた。
 「いつもありがとう、誠也」
 「とんでもない。真琴ちゃんは出来が良いから俺、とっても楽だしやり甲斐もあります」
 こっちに来て座りな、と英明が言って、美穂の横の椅子に誠也を促した。
 誠也は躊躇わずそこに腰を下ろした。
 「お茶でいい? それともコーヒー淹れてあげようか?」
 「大丈夫です、お茶をいただきます」
 美穂が客用の湯飲みを用意するために椅子を立つと、誠也はテーブルに置かれたリンゴに目を向けた。
 それに気づいた英明が言った。
 「昔から好きだったな、誠也」
 「叔父さんにも時々買ってきてもらってましたね、小さい頃」
 誠也はにっこり笑った。
 「リンゴって年中出回ってるな。そう言えば」英明はそのリンゴを手に取った。「収穫時期は秋なんだろ?」
 「種類にもよりますけど、リンゴって長期保存が利くんですよ。CA貯蔵法って言って、リンゴの呼吸を制御して鮮度を保つっていう方法で」
 「へえ、よく知ってるな、誠也。さすがだな」
 「このジョナゴールドもほんとだったら十一月までが旬」
 「品種までわかるの? 誠也君」
 美穂が急須から湯飲みに茶を注ぎながら訊いた。
 誠也は肩をすくめた。
 「もともと好きだったからいろいろ調べもしたし、青果の卸しやってた時にもいろいろ勉強させてもらったんです」誠也は笑った。「『人を成長させない経験は無い』ってことですね」
 「言うことが教師みたいだな」
 「予備校の教師ですけどね」
 誠也はまた笑って前に置かれた湯飲みを手に取った。
 「あちちっ」
 一口茶を飲んだ誠也は慌てて湯飲みをテーブルに戻し、小さく舌を出して右手でひらひらと扇いだ。
 「そんなに熱かった?」美穂がおかしそうに言った。「少し冷まして淹れたつもりだったんだけど」
 「俺、猫舌だってこと、知ってるでしょ? 美穂さん」
 誠也は困ったように眉尻を下げた。
 「だったらすぐに口に持って行かなくてもいいだろ?」
 英明が呆れて言った。
 「そう言えばおまえ僕のことは『叔父さん』って呼ぶのに、美穂のことは『美穂さん』って呼ぶよな。なんで『叔母さん』じゃないんだ?」
 誠也ははっとして身を固くした。
 「ま、君たちは歳が近いからな。美穂も誠也に『叔母さん』なんて呼ばれるのには抵抗があるか」
 英明は小さなため息をつき、美穂もお座りよ、と言って妻を椅子に座らせると、いつになく真剣な表情で二人の顔を交互に見た。そして低い声で言った。
 「何も言わずに僕の話を聞いてくれないか」
 美穂は緊張したように顔をこわばらせた。横に座った誠也も額にうっすらと汗をかいてうつむいたままだ。

 「僕は君たち二人の本当の関係を知ってる」

 美穂と誠也は青ざめた。誠也がごくりと唾を飲み込む音がした。


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