10.発覚-6
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その後も英明はあかりとの関係を続けた。三週間に一度程、決まって月曜日に、今日は遅くなる、と英明は美穂にメールを送ってからいつもより学校を早く閉め、あかりを連れてホテルに通っていた。しかし、元々セックスに対しての興味がほとんど持てず、その行為によって気持ち良さを感じることができない彼は、あかりの気持ちに応えて逢瀬を重ねてはいたが、元々英明自身があかりを思う気持ちはそれほど熱いものではなかったわけで、いきおいホテルでの行為もあかりを満足させることなどできるはずもなく、彼女の方も英明が無理して自分とつき合っているということに薄々気づき始めていた。
あかり自身、恋する気持ちが肌を合わせることとイコールではないと頭ではわかっていたが、身体を満足させて欲しいという欲求は始めから持っていた。それが英明では満たされないことがはっきりしてくると、仕事中の飲み掛けのコーヒーのように、気づいた時にはあかりの彼への思いは冷めてしまっていた。
そして3月の学年末。あかりは異動を機会に英明との関係を終わらせようと決めた。もう思い残すことはなかった。皮肉なことに、あれほど熱烈だった英明への思いがすっかり冷めてしまったことで、この学校を去る名残惜しさが潮が引くように遠ざかっていったとも言えるのだった。
送別会の席でのあかりは、何かに解放されように終始晴れやかな表情だった。
「いろいろとありがとうございました。新しい学校で心機一転がんばります」
英明は動揺した。好きだったわけでもないのに、そのあかりからの決別の言葉にひどく気持ちが落ちることに自分自身で焦り、少しばかりの怒りにも似た感情さえ抱いていた。
元々、妻美穂の不貞への復讐のつもりであかりの思いを利用し、彼女を抱いていたが、気づいた時には自分があかりに愛想を尽かされ、男としての魅力が欠如していることをさらけ出し、結果美穂への復讐どころか、自分自身を貶める結果に終わってしまった。幾重にも重なった敗北感が英明の胸を締め付け、同時に自己嫌悪が頭の中を占領した。
しかし、それと同時に英明は美穂が二つの顔を使い分けていることを不憫に感じ始めた。そしてそれは彼女の自分への思いやりなのかもしれないと考え始めた。美穂は今でも、今までもずっと自分の妻としての役割を十分に果たしてくれている。唯一自分には実現できない彼女の身体を満足させるという役割を代わりに誠也が担ってくれているということは、実は正当で無理からぬことなのではないか、自分にとっても好都合で、逆に誠也に感謝すべきことなのではないかと思い始めたのだった。
すると、突然英明の心に、美穂が自分から離れていくことを恐れる気持ちが湧き上がってきた。誠也に身体ばかりか心まで奪われてしまい、秀島あかりのように、美穂の自分への気持ちが冷めていくのではないか、という恐怖感がじわじわと彼の心の中に広がっていく。
美穂の気持ち、そして自分の立ち位置を確かめたい。英明は心に決めた。