9.接近-5
「すごいよ、誠也。もうどうにかなりそうだった……」
美穂は荒い息を整えながらベッドに仰向けになった誠也の身体に寄り添うようにして言った。
「いっぱい汗かいてる」誠也は恥ずかしげに言って、枕元に丸めて置いていたバスタオルを手に取り、美穂の身体を拭いた。
「後ろから挑まれると、すごく感じる」
「そう?」
誠也は微笑んだ。
「でもさっき振り向いてキスした時、首、痛くなかった?」
「あたし身体柔らかいから大丈夫」
「そうか」
誠也は仰向けになった美穂の胸の膨らみを左手でそっと包み込んだ。
「前から思ってたんだけどさ」
「なに?」美穂は誠也に顔を向けた。
「美穂のおっぱいって、リンゴみたい」
そう言いながら誠也はその乳房を手でさすった。
「何でもリンゴと結びつけないでよ。ほんとに好きだね、誠也」
美穂が呆れたように言った。
「だって、この丸い曲線、俺に抱かれてる時ピンク色になって『陸奥』っぽい」
「ムツ? なんか昔誠也から聞いたことがあるような……」
「リンゴの品種。元々黄緑色なんだけどね、袋を掛けて育てると赤くなってきて、最後に陽に当てるときれいなピンクがかった赤に染まるんだ。リンゴの中でも一番きれいな色」
「そうなんだ……最初から陽に当ててちゃだめなの?」
「それは『サン陸奥』って言って元々の黄緑色のまま甘くなる」
「不思議だね」
「袋で隠されて赤くなる、なんてちょっと妖艶な感じがするよね」
誠也が言った。
「誠也エッチなこと考えてる……」
美穂は誠也の鼻をつついた。
「袋から開放されてピンク色に染まって、おいしくなる」
誠也は美穂の右の乳房をさすりながら左の乳房にむしゃぶりついた。
「ああん……」美穂は喘いだ。
口を離した誠也が言った。「俺、大好物なんだ、これ」
再び自分の乳房に顔を埋めてきた誠也の頭を、美穂は乱暴に撫でた。
誠也に腕枕をしてもらったまま、美穂は誠也に身体を寄り添わせた。
「ねえ、誠也」
「ん?」
「あたしの結婚式の夜に、もう会わないって約束してスマホの連絡先も消したでしょ?」
「そうだったね」
「あたしたちが親戚関係にならなければ、そのままずっと会えずに、自然消滅してたのかな……」
少し考えた後、誠也は言った。
「俺はそうは思わない」
「え?」
「増岡の実家で君と会うことがなかったとしても、俺はたぶん我慢できずに君に会いに行くと思う」
「誠也……」
「俺って……弱い人間なんだよ、きっと」誠也は少し沈んだ声で言った。「出会った日から、俺にとって美穂はもうその存在を消すことができない人になってた……」
美穂の鼻の奥につんとした痛みが走った。
「あたし、あなたにも必要とされてるんだね。嬉しい……」そして美穂はぽつりと言った。「あなたと英明さんが同一人物だったら良かったのにな……」
甘える子猫のような瞳で誠也を見つめる美穂を見つめ返し、切なそうにな微笑みを浮かべて誠也は言った。
「俺たちのこの時間はずっと秘密にしとかなきゃいけないんだね」誠也は美穂の髪を優しく撫でた。「これからもずっと」
美穂は目を閉じてうなずいた。