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デザートは甘いリンゴで
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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8.再燃-2

 「車はどこに?」
 「そこのコンビニに駐めてます」
 「なんで? よく利用するの?」
 「そういうわけじゃないけど……」言いよどんで、誠也は頬を人差し指で掻きながら続けた。「美穂さんは仕事はされてないんですか?」
 「今は週に三日、お弁当屋さんにパートで」
 「そうですか」
 誠也はコーヒーをすすった。そしてぐるぐると部屋の中を見回しながら言った。
 「いいですね、一軒家。去年でしたっけ? 引っ越したの」
 「うん。去年の今頃だったかな。まだまだローンが山のように残ってる」
 美穂は自嘲気味に言って眉尻を下げた。
 「いやいや、叔父さんの稼ぎだったらすぐですよ」

 再び誠也がカップを手に取った時、美穂が低い声で言った。
 「どうしてあたしに声を掛けたの?」
 「え?」誠也は思わず顔を上げた。
 「もうこうして二人きりでは会わないって約束したのに……」
 美穂の胸の中心辺りがきゅうっと音を立てた。

 美穂はうつむいた。誠也もうつむいた。

 誠也が小さな声で言った。
 「……ごめんなさい。まだ時効じゃなかったのかな……」
 「時効って何よ」
 「あの関係をなかったことにするのに掛かる時間が過ぎた、ってこと」
 誠也は顔を上げずに続けた。
 「美穂さんを俺の叔父の奥さんとして見られるようになったかな……って」
 そして誠也はひどく申し訳なさそうに身を縮めた。
 美穂は立ち上がり、ゆっくりと誠也の背後に立った。ソファに張り付いたように座った誠也はかしこまったまま動かなかった。
 「うちの近くのコンビニにはもう何度も来てるの?」
 「そ、それは……」

 少しの時間、二人の間に沈黙が横たわった。

 「お願いだから、もういいかげんあの時のあたしを忘れてよ……」
 美穂は震える声でそう言って、誠也の両肩にそっと手を置いた。
 「……」
 「あなたもあたしも既婚者。お互い忘れてしまわなきゃいけない、って約束したでしょ」
 その言葉を聞いた誠也は出し抜けに立ち上がり、振り向いて美穂の顔を睨み付けた。
 「じゃあ教えてよ! どうすれば忘れられるのか、教えてくれよ!」
 その誠也の大声に美穂はたじろぎ、思わず後ずさった。
 「せ、誠也君……」
 「俺にはわからないよ、ちゃんと教えて! ねえ、美穂さん、どうすれば貴女を忘れられる?」誠也は唇を震わせながら叫んだ。「俺、美穂さんを忘れたいなんて思ったこと、一度もないよ。貴女を忘れるなんて無理なんだよ、俺には!」
 美穂は誠也の目を見つめ、真っ白になる程唇を噛んで、小さく身体を震わせていた。
 「知ってるなら教えて! 貴女を忘れる方法! ねえ、美穂さん!」
 誠也は両手の拳を握りしめ、顔を真っ赤にして叫んだ。

 「バカじゃないの?」
 美穂も大声で叫び、ずいと進み出て誠也を睨み付けた。
 誠也はびくん、と身体を震わせた。
 「そんなこと、あたしに解るわけないじゃない! あたしだって!」
 美穂は涙ぐんでそう叫ぶと、誠也の頭を両手で鷲づかみにして、唇を彼のそれに強く押し当てた。
 んんっ、と呻いて目を見開いた誠也は、反射的に両腕で強く美穂の身体を抱きしめた。
 「美穂っ!」
 一度口を離してその名を呼んだ誠也は再び美穂の唇を自らのそれで塞いだ。
 二人は激しく口を交差させながら、忘れることの叶わなかったその甘く熱い感触を貪り合った。

 狂った時計のように二人の時間が一気に逆回転を始め、過去に重なった。


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