6.過ち-3
「誠也君は奥さんとうまくいってないってほんとなの?」
はあ、とため息をついて誠也は答えた。「いってません」
「英明さんも言ってた。扱いにくい嫁だって」美穂は誠也に顔を向けた。「どういう夫婦なの? あなたたちって」
「俺は大学に一浪して入ったんだ。そして水泳のサークルであの人と出会った。俺はそれほどでもなかったけど、彼女の押しが強くて、卒業してスポーツジムに就職してから俺に貢ぐって言い始めたんだ」
「強引だね」
「一年の時の冬におふくろが急死したから経済的にはかなり厳しかったこともあってさ」
「知ってる。お母さんを亡くして辛かったね」
誠也は静かに目を閉じた。「確かに辛かった。それでその時も彼女は俺を誰よりも心配してくれた。そのこともあってあの人に心を奪われたような気になったのかもしれない」
「あなたに尽くしてくれてるわけじゃないの?」
「気が強い人で、他人にあれこれ言われるのが大嫌いなんだ。自分のやりたいようにやらなきゃ気が済まないって言うか……だから俺に対しては尽くすと言うより命令に近い」
「そう……」
「俺のおふくろがそんな感じだったから、同じようなタイプで安心してたのかも」
美穂は誠也に身体を向けて、諭すような口調で言った。
「それっていわゆる『共依存』だよ。奥さんはあなたをいいように扱って、あなたはそれを受け入れる、それで安心するっていう関係」
「どこかで断ち切りたいとは思ってる。でも今俺は学生で、彼女に援助してもらってる。立場は圧倒的に弱い」
「卒業して就職するまで我慢してるってことなの?」
「就職したらどうするか、なんて今は具体的な考えが浮かばない。その時にならないとわからないな……」
「何の勉強してるの? 大学で」
「美穂さんには笑われるかもしれないけど、教育学部に在籍してる」
「将来は学校の先生?」
「できればね。だから英明叔父さんは俺の目標」
美穂は小さな声で躊躇いがちに言った。
「奥さんとは、その、夜は……」
誠也は肩をすくめた。
「求められるけどその気にならないんだ。途中で萎える」
「その歳で?」
「結婚前は何かと理由をつけて断ってた。だから彼女と初めてエッチしたのは結婚してからなんだ」
「奥さんはあなたをよく求めてくるの?」
「子供が欲しいらしいよ」誠也はこれまでで一番大きなため息をついた。「勘弁して欲しい……」
美穂の胸が締め付けられるように痛んだ。
「もし子供ができたら、ますますあなたは奥さんに虐げられるよ? ますますその人の言いなりになっちゃうよ?」
まるで今すぐにでも別れろと言わんばかりのその中身と突き放したような口調に、美穂は自分自身をひどく惨めに思った。たとえ誠也が離婚したところで、自分とのこの関係が正当化されるわけではないのに……。
「俺もそう思う。それで俺がまだ子供はいらないって逃げてるから、あの人の機嫌は悪くなる一方さ。どっちにしたって事態は好転しない」
しばらくの間、誠也は目を閉じたままじっとしていた。
美穂が握っていた誠也の手を離した時、彼はゆっくりと瞼を開いた。
「あなたがそんな境遇でも、あたしたちは秘密の関係。誰にも知られちゃいけない秘密の」
誠也は焦ったように言った。
「俺、美穂さんが好きだってことは本気。信じて」
美穂は切なそうに笑った。「うん、信じる。でもそれじゃ解決にならない。やっぱり秘密は秘密」
「美穂さん……」
美穂は目に浮かんだ涙を指で拭った。
「誠也君、何度も言ってごめんね、あたし、あなたが好きなの、大好きになっちゃったの」
「美穂さん……」
「お願い、あなたも言って、もう一度、あたしが好きだって……」
「美穂さん!」
誠也はそう叫ぶやいなや、美穂に覆い被さり、また激しくその口を吸った。美穂は瞳に涙をためてそれに応えた。そして彼女は誠也の背中を抱きしめ、誠也も同じように再び熱を帯び始めた美穂の身体を強く抱き返した。
誠也の口が美穂の首筋を這い、鎖骨を経て二つの膨らみに到達した。そして誠也は貪るように二つの乳房を代わる代わる咥え込み、その舌で乳首を転がし、唇を尖らせて吸った。
いつしか美穂は大きな喘ぎ声を上げていた。
誠也は美穂の脚を抱え上げてその秘部に口をつけ、秘毛の下の小さな粒を舐めた。美穂がいっそう高い声で喘ぐ。そしてそのまま誠也は熱く跳ね上がったものを勢いをつけて彼女の谷間に埋め込み始めた。
「俺も好きだ、美穂さん、美穂さんっ!」
きゃあっという悲鳴と共に、美穂は苦しそうに顔をゆがめ、涙をこぼしながら誠也の名を叫んだ。
誠也と美穂は再び深く一つに繋がり合った。
「来て、来てっ! もう一度」
美穂がぎゅっと目を閉じたままそう叫ぶと誠也はその脚を抱え込んだまま腰を大きく動かし、下になったその女性の名を呼び続けた。
そして二人の身体が重なり合ったまま同時に大きく跳ね上がった時、誠也の身体の奥からほとばしり出た熱い思いが強烈な勢いで美穂の身体の一番奥、疼きが最高潮に達していた最も神秘的で神聖な場所に注ぎ込まれ、満たされていった。