第7話-3
うっすらと目を開けると、憎むべき男の胸の中に抱かれていることを知る。
どういうつもりか、諸橋は行為が終わった後、いつもこうしている。
これも敵の恋人だったオンナを我が物にした嗜虐心を満足させる行為の一環なのだろう。
嫌悪感をそのままに、ぐっと手のひらで胸板を押して距離をとる。
「……今日はもう終わりだろ。さっさと離れろよ」
ぐるっと身体を廻し、脱ぎ散らかしたセーラー服に手をかける。
「お前が俺に指図できる立場か? ……まぁいい。今日は俺の後ろに乗ってけ」
着替え始めた沙耶香は背中に掛かる声に愕然とする。
「なんでアタシがテメーの単車に乗らなくちゃいけねーんだよっ!」
「うるせーなぁ。だからお前が俺に指図できんのか? 自分の立場ってもんを忘れてんじゃねーぞ」
セーラー服の袖に腕だけを通した姿で憎しみに満ちた眼差しを向けるも。
なすすべが無いことはもうわかっていた。
………
沙耶香の家の前。
爆音をとどろかせていたバイクは停車するとアイドリングの重低音だけを響かせる。
嫌悪感に包まれながら腰に廻していた腕を解くと、さっさと降りて玄関のドアに向かった。
「おい」
追ってきた声にぴたりとドアノブに手をかけたままとまる。
キッと顔だけを向ける。
「ここに挨拶がねえぞ」
諸橋は自分の唇を指差し、口付を要求する。
わなわなと震えて激情を体中から迸らせて数秒。
バッと身を翻し、一気に距離をつめ、息もつかせずにかすかに触れる。
まるで挑みかかるような接吻。
居合いのようなヒットアンドウェイ。
少し離れて殺気をこめた瞳で己の心情を男に叩きつけ。
再度身を翻して玄関に向かう。
今度は何事も無く、そのまま家の中に入った。
無言で靴を脱ぎ、階段へと向かう。
すると居間から顔を出した母親と目が合う。
「お友達?」
自分はどんな顔をしているのだろうか。
わからぬまま、ぼそりと答えて通り過ぎていく。
「ううん、そんなんじゃないよ」
どのような感情も出さぬよう気をつけたつもりであったが、心配そうな母親に何かを感じさせはしなかったかと部屋に戻ってからもしばらく気に掛かった。