第5話-1
猪熊が暴漢に襲われて入院したことを知ったのは、沙耶香がそろそろ男のアパートをどう家捜しするか具体的に検討しはじめたころであった。
既に最初に犯されたときから1ヶ月ほどたっており、数日おきに続く陵辱が無理やり沙耶香の身体を目覚めさせていた。
日毎強くなる肉体の悦びに焦燥が募り、必死であらゆる情報をかき集める。
そして校内にいるときは職員室の机に貴重品を置いており、授業中は比較的警戒が薄れていることをやっと突き止めた。
あとはどのタイミングで鍵を奪い、知られずに複製するかを考えていたとき。
初冬の冷えに身体を縮ませて登校した沙耶香にヨウコがニュースを届けてきたのだ。
その日の放課後、猪熊が入院した病院へと赴いた。
もちろん心配したわけではない。
この事態がアパートに進入する一助になりうる期待を持って様子を探るためだ。
入院中の貴重品の保管の仕方や、アパートの部屋の状況など可能な限り把握しようと覚悟を決めて猪熊が入っている個室のドアを開けた。
全身包帯だらけの猪熊の姿に息を飲んだ。
自分を卑劣な脅迫で犯した男に同情心などは皆無である。
だからそれは単純に人体が受けた痛々しい損傷を見て感じる本能的な衝動であった。
それでも目だけを覗かせたミイラ男に、根深い筈の敵愾心すら一瞬忘れてしまう。
しかし受けた衝撃はそれだけではなかった。
やっとのようすで口を開いた猪熊から出た言葉は沙耶香を絶望のどん底へと突き落とす。
「……お前の動画を……奪われた……」
………
わかったのは、
・夜、帰宅途中にいきなり襲われた
・鍵を奪われ家捜しされていた
・人に頼んで自宅に置いていた貴重品を確認してもらった、沙耶香の動画が入ったメモリースティックも含めて数点のものが奪われていた
ということであった。
絶望と焦燥と怒りで逸る気持ちを抑えて、必死に考えを巡らす沙耶香。
自分の動画がどう扱われるか、他の人目にふれてしまうことに意識が向かってしまうのを無理やり抑えて、状況を反芻する。
そして猪熊の話に出てきた奪われたものの内容が気にかかる。
ただの暴漢がたとえ貴重品と一緒であったとしてもメモリースティックを奪うのだろうか。
そうなると同時に奪われたという他の貴重品とやらも具体的にはなんなのか。
腑に落ちないものを感じ始めると一気に不審へと成長していく。
ふがふが言っている猪熊を強く詰問する。
ようやく白状した。
沙耶香と同様、他の少女にも似たような脅迫をするための物品を持っており、同じ場所に保管していたらしい。
そして恐らく暴漢は初めからそれを狙っていた可能性が高く、沙耶香のメモリースティックは対象を判じかねた犯人が一緒くたに持ち去ったのだろうと言い出した。
内心、怒りと軽蔑の嵐が吹き荒れていたが、筋としては得心のいくものだと考える。
ただしある程度状況がわかっても危機的状況には変わらない。
猪熊が狙っていたほかの少女に関する情報を聞き出そうとするが、足がつくことを恐れたのであろう猪熊はそれだけは口を割らなかった。
その代わり暴漢の心当たりについてはあっさりと言う。
「……N高の前田だ……」