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おはよう!
【純愛 恋愛小説】

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おはよう!-5



「・・そのままだよ」
「そのまま・・?」

奏多の言葉に、納得ができない和音は聞き返す。
その聞き返しをすぐ答えずに、奏多は視線を自分の手にある写真へと移す。
少しだけ、寂しそうにする奏多の心が読めず、和音は困惑して、苛立ちさえ覚える。
いかにも、自分だけが知っているような物言いが、気に食わない。
和音はさらに問い詰める。

「忘れられない、なんて、私は奏多とちゃんと関わったことなんて無い!それなのに、」
「それなのに、おかしい、・・ってか?」

奏多が、和音のセリフと合わせるように言葉を告げる。
ピッタリと当てられた和音は言葉に詰まる。

「おかしくても、仕方ねえだろ。忘れられないもんは忘れられないんだから」
「っ、だから、さっきから忘れられない忘れられないって・・!」

同じ言葉の応酬に、和音は苛立ちを隠せなかった。
和音だけが、何も知らないんだとばかりに、話が進まない。
自分が関わっているはずなのに、本当は蚊帳の外にいたように感じられる。
まるで、和音ではない、誰かのことを聞いているようで、気持ちが悪かった。

「私の何を知っていて、私の何を覚えてるって言うの!!」

苛立ちに任せて出た言葉を皮切りに、和音は自分の感情を抑えることが出来なかった。

「この頃から私はっ、ホルンを吹いていても楽しくなかった!家に帰るのも嫌だった!仲の良い家族を演じるのも、周りから妬まれるのも嫌だった!良い事なんて何も!!」
「それでも、航太と晶斗といた時は笑顔だったろ?」
「・・っ」

冷静に、落ち着いた低い声で告げられた奏多の言葉に、和音は唇を噛み締めた。
今自分がぶちまけたことは、全て事実であり、過去だ。
そして、奏多が言ったことも、和音にとっては大切な事実だった。

「・・っ・・どうして、奏多がそれを・・!」
「覚えてるって言ったろ。お前は、一人で居るときや大人と居るときはいつも泣きそうな顔をしてた。」
「・・・」
「でも、同期だっつー航太や晶斗はお前を出来るだけ一人にはしなかった。あいつらと居るときだけは、お前は笑ってたよな。いつも、楽しそうだった。」
「・・・・・」

奏多の言葉に、和音は同期である航太と晶斗を思い浮かべた。
そうだ、彼らはいつも傍にいてくれた。
バカな話をして、いつも楽しませてくれた。
一人になりたくても、させてくれなかった。
放っておいて、くれなかった。
それが、幼い頃から和音は鬱陶しくて、何よりも嬉しかった。
最近では鼓笛隊を辞めるつもりでいたから話をしていなかったが、彼らは寂しかったようで、この前話しかけた時はどこか嬉しそうにしていたのを覚えている。
だが、それ以上に、自分自身が彼らの様子を見て、安心していたのだ。
ちゃんと、大切にしてくれていると、分かるから。

誰にも言ったことのない、和音の気持ちを、奏多は昔から知っていた。
和音が自分で居られた人たちのことを知っていた。
それが、今のやり取りの、何よりの答えなのかもしれない。
和音は、噛み締めていた唇を開いた。

「私を、忘れられない、って、何?」
「だから、そのままの意味」
「私の、何を忘れられないの?」

落ち着いた和音の声が、倉庫に響く。
困惑することなく、苛立つこともなく、凛とした表情で奏多へと問いかける。
ただ、奏多のことが知りたい、その気持ちだけだった。
その想いが伝わったのか、奏多は今の今までの、どこか寂しそうな表情は消え、目を細め、物憂げな表情へ変わった。

「ホルンを吹くところも・・航太たちと笑ってたところも・・一人で泣いてたところも、全部、覚えてる。」
「・・うん」
「お前は、自分のホルンが嫌いみたいだけど、俺は好きだった。誰よりも存在感ある音出すくせに、繊細で、優しい音だと思う。」
「・・・そ、そう」

初めて他人に自分の音を評価されるわけでもないのに、なぜか恥ずかしく感じる。
和音は口元を手で覆う。
奏多はそんな和音の様子に気付いていないようで、言葉を続ける。

「そんな和音の音に憧れた、初めて人をすごいと思ったんだ。」
「・・・うん」
「すごいやつだけど、でも一人でいるときには・・弱々しくて・・」

そこで言葉を切った奏多は、口元を覆う和音の手を優しく掴んで、ギュッと握り締めた。
突然の奏多の行動に、和音は驚く。

「え、ちょ・・かな、」
「俺が、守ってやりたいって・・そう思った」
「・・え・・」

奏多の言葉に和音は目を見開いた。
いつの間にか、和音の目の前に奏多が距離を詰めていて、顔を上げればすぐ奏多の顔があった。
今まで一番近くで見える奏多の顔は、気が付くと再び真剣な表情になっていた。
見慣れない奏多の表情を、見上げる和音は驚きで何も言えなかった。


「守りたくて、俺が助けてやりたかった。ガキだったけど、本当にそう思ってた。」
「・・・」
「ガキながらに本気だったから・・和音を、忘れられなかった。」
「どうして・・そこまで・・」

無意識に出た、和音の問いに、奏多は柔らかく微笑んだ。
微笑むだけで、その質問に答える気がない奏多を見て、和音は再び口をつぐむ。


「(・・初恋だったから)」


そう、奏多が心の中で答えていることに気付かず・・。







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