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おはよう!
【純愛 恋愛小説】

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おはよう!-2

 

始業式を終えた和音と雫は、並んで廊下を歩いていた。
この後は簡単なHRがあるだけで、何も授業は無い。
始業式ということで、通常通りの部活動が行われているが、和音はどこにも属していないのでこのまま帰宅するだけだ。
それは雫も同様だった。

「和音、このあとカフェとかでお話しよう?」

雫のその言葉がきっかけとなって、和音は雫とともに学校の最寄り駅近くにある小さなカフェを訪れることとなった。
店の奥にあるテーブル席に座った二人は、注文を聞きに来た店員にそれぞれ飲み物を頼む。
注文を聞き取った店員が自分たちの席を後にすると、二人は話し始める。

「ここ、落ち着いているカフェでしょ?この間見つけて、和音と来ようって思ってたんだー!」
「そうなの?・・うん、確かに、落ち着く場所だね。」
「でしょ!良かった、和音に気に入って貰えて!」

雫が顔をほころばせる。
そんな雫に、和音は微笑みかけてから、改めて店内を見回した。
赤茶色を基とした、レトロモダンな店内に、どこか昭和を感じさせるようなインテリアやポスター。アンティークなテーブルやチェアに、年季を感じさせるコーヒーメーカーの置いてあるカウンター。向かいには、初老のこのカフェの店主が佇んでいる。
和音は、どこか懐かしく思えるような落ち着きがあるこのカフェを早くも気に入った。

「それでそれで?和音、鼓笛隊のほうは順調?」

頼んでいた飲み物が店員によって運ばれてくると、雫は意を決したように身を乗り出した。顔を近づけられた和音は一瞬驚くも、すぐに落ち着きを取り戻して、自分の飲み物に手をつけた。
一口、紅茶を飲むと、和音は軽くため息をついた。

「大げさなほどではないけど、一応少しは順調。まだまだ全然だけどね」
「またまた、そんなこと言って。和音がそんな風に言うってことは上達しているんだね、奏多くん、だっけ?」
「そう。藤堂奏多。」
「年下なんだっけ?どんな子?」
「どんなって・・」

雫の質問に、和音は思わずどもってしまった。
そこまで付き合いが長くはないので、はっきりとは言えないが、和音から見たら奏多はどんな存在か。
和音が考えて、口にした言葉は「意味不明、な奴」の一言だ。
その言葉に、雫は驚きと戸惑いを露わにした。

「(ひどい言い方だけど、これしかない。)」

人が鼓笛隊を辞めようとすれば、それを止めさせた挙句、自分にホルンを教えろだの、一緒に舞台に立つなどといった約束を取り付ける。今まで女扱いをしたこともなかったくせに、頬に傷を作ると、手厚く手当をしてくれ、傷を軽んじた和音を怒り、心配する。人の家庭事情を聞いても、和音がいればいいという言葉を投げてよこす。
奏多が何を考え、行動しているのかが分からず、『意味不明』という表現しか出来ないのだ。

そこまで振り返って、和音は再び紅茶を口にする。
和音の言葉が上手く理解できなかった雫は、さらに身を乗り出す。

「そりゃ、今はそうかもしれないけど!」
「うん」
「じゃあ、昔は?」
「・・昔?」

雫の更なる質問に、和音は首を傾げた。

「そう、昔。奏多くんって、今はスタッフ兼、ホルン(仮)でしょ?ってことは、鼓笛隊にいたんでしょ?」
「まあ、そう聞いてはいるけど・・」
「じゃあ、昔はどんな子だったのかな?和音知ってる?」
「いや・・知らない。昔、一時期隊員がいっぱい居たけど、ほとんどが辞めて入れ替わっちゃったから。全然覚えてない。」

そう話して、和音ははたと思い出す。

「(あれ、この下り、航太や晶斗とした気がする。)」

どこかデジャヴを感じながらも、和音は続ける。

「もしかしたら、スネアの同期生に聞けば何か知ってるかもしれないけどね」

その言葉に、納得したのは自分だった。

そう、あの時、だからこそスネアの同期生である航太と晶斗に、聞いたのだ。

「(何を?何を二人に聞いたんだっけ?)」

二人に聞いたこと。
たしか、それは・・。

「そうだ・・」
「和音?」

「(思い出した、二人に何を聞いていたのか)」

和音は、すすっていた紅茶のカップを置いた。

「(あの時、二人に聞いたのは、アルバムの写真の子のことだった。)」

すっかり忘れていた、と和音は自分に呆れる。
航太や晶斗にわざわざ誰か聞くほどに、あの写真の子を気にしていたというのに、今まで忘れられていた自分に。

「か、和音?なに?どうしたの?」

ため息をついている和音は、不思議そうに自分を見つめる雫に気づいた。
よく考えたら、目の前にいる彼女を放って自分の世界に入り込んでしまっていた。

「あ、ごめん、雫。気にしないで?」
「うん。大丈夫だよ」

和音が素直に謝ると、雫も笑顔で返す。

「何を思い出したの?」
「あー、えっと・・」


一瞬だけ、雫に話すか躊躇うも、ここまで気にかけさせてしまったからには話すしか無い、と考えた和音はアルバムの中にいる男の子の話を詳しく説明した。
11年前の、幼い自分を見つめる男の子。
和音の見たままに、雫に説明をする。

「・・どしたの?」

興味津々に聞いていた雫が途中で首を傾げるのに気付いて、中断した。
当の雫は、変わらず首を傾げていた。

「うんとね、その男の子の説明、似たようなのを聞いた気がして・・」
「え、ウソ。どこで?」

まさか、雫の知り合いなのかと驚いた和音だったが、雫の次の言葉に言葉を失った。


「えっと、和音から、聞いたと思うんだけど・・」





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