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碧の物語-5
【SM 官能小説】

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碧の水浴-1

クリームソーダの色は翠。透かして見た水平線は円く歪んで炭酸の泡が流れ星。
安普請の「海の家」はすぐそこが波打ち際で、左の方には荒涼とした岩山が鋸のようにその刃を覗かせている。沖へ延びたコンクリートの桟橋を挟んで、右側は鏡のように静かな湾が汗をかいたグラスの中から見渡せる。
ビーチサンダルの足音は碧の座る窓際の席の向かいで止まった。

「君、ひとりなの?」

白い歯も眩しいイケメン。日焼けした肌も逞しい青年はにこやかに笑う。まるでアメコミのヒーローだ。どんな女性でも一発で落としそうなタイプ。
「紫陽浜」はこの「神の集う島」として知られる島の浜辺の中でも交通の便が悪いせいか、人は極端に少ない。観光客は港のある島の表側にある「桔梗浜」に集まり、旅館や商店街もそこに集中している。
このイケメンなら、際どいビキニに包まれたナイスバディがいくらでも「桔梗浜」でよりどりみどりのはずだ。
なのに、美しい浜辺だが人家は一軒もなく、体育大学の水泳部の部員が夏限定で開いているこの「海の家」一軒のみ営業という寂れた海岸にいるのは不自然。
碧はクリームソーダのアイスを舐めながら男の股間を横目で覗く。そこに答えはあった。
男のブーメランパンツは醜く変形していたし、碧は男の勃起を決して見逃さない。

碧が母親とこの諸島に来たのは主に母親の希望だった。
母親はいま、船で30分ほど離れた隣の島にある高級リゾートのスイートに泊まっている。
「11歳の男の子を連れてきたお母さん」なんてとても碧の母親の奔放な性格が許すわけがない。今頃は「とても30代には見えない魅力的な独身セレブ」を演じて若い男たちを翻弄しているだろう。ドライなマティーニにオリーブを落として舐める母はちょっとしたモデルクラスだからね。

それにしても、イケメンもこの浜辺に不似合いなら、碧もまた似合わない。
日焼け知らずの白い肌は透き通るよう。三日月の弧を描く眉の下には漆黒の瞳が黒いダイアモンドのごとく輝き、幼いさくらんぼの唇は艶っぽい女性のそれと変わらない。
明らかに一流ブランドの製品だと解る水着はイケメンの身につけているブーメランパンツとは異なり、洒落たカットでそのしなやかな子鹿のような肢体によく似合う。
もし、この少年が女児の水着を纏ったなら、それがワンピースでもビキニでも競泳用でも、誰もが美少女だと思うだろう。

それもアイドル級の、スクリーンのヒロインに。

「うん。君、イケてるね」

イケメンというものは喋りすぎると駄目になるって誰かが言っていた。
この男はその点をわきまえているらしい。
碧の目付きが凛々しいものから、いつしか睡たげで気怠いものに変わる。
あどけない無邪気な少年から、妖しげな色香を放つ娼婦を思わせるそれに静かにシフトする。
イケメンはその勇者のような瞳を開き、驚嘆の表情を浮かべて碧の仕草を見つめた。

例えば、足を組み替えただけで。その魅力的なもも肉を歪ませただけで。
頬杖をつき、その天使の羽根の痕に影を作るだけで、碧は淫らな空気を作り出す。
クリームソーダに付いてきた紅いチェリーを前歯の間に挟み、それを幼い舌が舐める。
同じ年頃の少年がやったなら、ただ巫山戯ているだけに見えるかも知れない。
ただ碧がそれをすると、仕事にあぶれた娼婦が金持ちの紳士を誘惑するシグナルと化す。
イケメンの気配に肉の欲望が浮かぶのもまた、碧は見逃さなかった。


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