それは 一枚の紙から始まった-1
放課後の学校の応接室。
僕の担任女性教師の某坂先生は、僕と母さんの前で、僕の『綴方』を読みはじめた。
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「せつくす」 初五年桐組 某島敬一
ぼくは、今 せつくすに夢中です。
この前、おなにいをしていたら、母に見られてしまいました。
母は、「男の子が、一人でそんなことをしてはいけないわ。」と言って、ぼくに女の人とのせつくすを教えてくれました。
ぼくは母が大好きで、母のはだかを考えながら おなにいをしていたので、母にせつくすを教えてもらえて、うれしかったです。
まだ、おチンチンを母につっこむまでは……
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ここまで読んで先生は、綴方用紙をひざの上に置いた。
「お母様、お母様も我が校を出られたお方ですから、我が校の伝統と格式をよくご存知でしょう。
その我が校開校から脈々と続く、言葉の教育の根幹である綴方に、このような汚れた文章を提出するなんて。
しかもこんな歪んだ性欲を……さいわい担任の私が早くに気づいたから良かったものの、他の教員の目に触れていたら 一大事になる所でしたよ!」
うつむいて聞いていた母さんは、静かに椅子から立ち上がると、床の上に正座して
「申し訳ございません…」
と、土下座をした。
「言い訳はいたしません。すべて私の責任です。この学校の歴史に汚点を残さぬよう、今すぐにでも退学の手続きをとらせていただきます。」
某坂先生はあわてて母さんのそばに正座した。
「いえ、某島さま。そんな事をなさってはいけません。わたくし、そこまで申してはおりません……」
土下座する母さんの横に、僕も土下座した。
「先生、ごめんなさい!あの綴方は、友達のウケを狙って書いたウソなんです。間違えて提出してしまったんです!」
僕は、二人の前で見苦しい言い訳をしていた。