僕と、万引き娘の攻防-1
僕はタロー。警備会社のいわゆる『万引きGメン』だ。
万引きは盗みだ。見逃してなるものか、という信念を持っている。
この役目について五年、自分としては そこそこの実績を感じている。
もっとも逆に言えば、それだけ万引き犯がやたら増えているんだ。
今、僕は中規模のドラッグストアに派遣されてるんだが、何で覚えてるんだか…年齢性別を問わず盗んだものの隠し方が巧妙だ。
僕の目はそれをのがさない。
万引きの疑いで事務室に連れて来られても、言い逃れを続ける万引き犯。隠し場所を暴いてやるともう許しを乞うばかりだ。
───
ところが、ここしばらく僕を、僕たちを悩ませている存在がある。
それは、中学生か高校生か……幼い顔立ちの少女だ。
その顔立ちとはウラハラに、実に大胆に品物を持ち去っていく。
ただその少女は、品物を持って店内をうろつく姿を、追いかけてるうちに見失ってしまう。
あとで店長立ち会いのもと、監視カメラの映像を確認して見ると、DVDプレーヤーを箱ごとかかえた彼女が、僕の目の前をゆうゆうと歩き去る姿が映っていたりする。
夏休みのまっただ中に現れた彼女を、僕も含めて社の主要メンバーが スキももらさぬ監視状態においたにもかかわらず、いつの間にか店を出てしまっていた。
やはり監視カメラを確認して見ると、百戦錬磨の万引きGメンである僕の女性上司の前を、彼女が両脇に花火セットをかかえて、堂々と歩き去る姿が映っていた。
「いったい、どないなっとるんでしょうねェ……」
モニターの前で店長がつぶやいた声が、僕たちの背筋にグサグサと突き刺さった。
──)(──
「ホンマに、どないなっとるんやろ……」
僕は家で、同棲相手のシュウコに話した。シュウコは読んでいた本から目をそらすことなく言った。
「まあ、それは『忍者』のワザやね。」
「お前なあ……そんな絵空事ですむ話やないねんぞ。」
シュウコは僕の言葉に涼しい顔で答えた。
「いやいや、忍者言うたら敵に追われとる時に、隠れようのない場所に来てしもたら、変に道具使(つ)こたりせんと、たとえば川べりの木の横に立って、
『俺は木や』『俺は木なんや』『俺は川べりのヤナギの木になったんや』と自分に言いきかせるんやわ。そしたら敵が追いついても、忍者の姿はあるけれど敵には木になって見えるんやて。」
「そんなこと、あるわけないやろ。」
シュウコに話すような事ではなかったなぁ━━