僕と、万引き娘の攻防-3
╂─…─╂
新しい年が明け、ホワイトデーも過ぎて、寒さがおさまったある日。
僕はシュウコに連れられて舞子の海辺に出かけた。
明石海峡大橋の「裏側」が見上げられる場所に座りこんだ。僕にとってひさしぶりに感じる屋外だった。
「『諸国にも 無いは舞子の 浜すがた』……やったかな。ホンマ、こんな海辺の風景はヨソでは見られへんわな。」
シュウコの言葉が僕の耳を通り抜けてゆく……あの日、僕は少女をとらえようと走り出して、駐車場を移動していた自動車とぶつかってしまった。
ケガはたいした事なかった。しかし、この事故は色々報道される事となった。
「ウエアラブル端末機を使用しながら行動する危険をあらためて示した」
「警備係が『監視カメラ』を作動させながら店内を巡回する事に問題はないのか」
さまざまな問題がテレビでも取り上げられた。
僕は見てなかったが、ネットの方では「このマヌケな万引きGメンをさがせ」なんてネタが広がってたらしい。
さいわいシュウコが、
「もうすぐ年末年始やし、ヘタに表に出たりせえへんかったら、みんな他の話題にシフトして行くやろ。」
と言って僕をしばらく隠蔽してくれたから、バレないまま春を迎えることができた。
(それにしても……)僕の心の中はおだやかにはなれなかった。(あの女、見えへんだけやのうて勘がきくんやな。あの事故が報道されてから、ホームセンターには姿を見せんようになったらしいけど。)
シュウコが立ち上がった。
「タコ焼きのにおいがする……どっかで店出しとるんかな。」
シュウコがタコ焼きをさがしに歩いていったあと、僕はテレビで見た「擬態」のことを思いだしていた。
木のえだそっくりの昆虫、枯葉そっくりの蝶々、花びらそっくりのクモ、海中の岩そっくりの生き物。
敵となる生き物に見つかりたくない一心で、そこまで自分の身体をそこまで変えてしまえるものなんだろうか。
念じていれば、そうしたものが与えられるんだろうか。
(あの少女も、ある意味で『擬態』で見えんようになっとるんかも知れへんな。
そやけど、擬態で隠れる生き物でも 同じ『身内』やったらその存在がわかったりするんかな。
『おおっ、あいつ うまいぐあいに間近で敵をやり過ごしたな。』なんてハタからは見えとるんかもな……)
「お〜い……どこや〜……?」
ふと僕がワレにかえると、シュウコがタコ焼きのトレイを持って、僕の前に立ってキョロキョロしていた。
「どないしたん?」
僕が声をかけると、シュウコは僕の姿に驚いたように目をパチパチさせた。
そして、自分のタコ焼きを一つ口に入れると、僕にタコ焼きを手渡しながら、タコ焼きを頬張る口で言った。
「ごめん、今 タローの姿がぜんぜん見えてなかったわ。」
【おわり】