サボり魔と委員長の屋上-1
秋真っ盛りの屋上。
何か表現が間違ってるような気がしないでもないけど、秋と言う季節が風景に一番顕著に表れる頃なので、真っ盛り、って言うのもあながち間違いじゃないと思う。
うん、春ほどじゃないけど陽射しがポカポカ、暖かい……。
む、何かの影で陽射しが遮られた。 まぁ、何の影かはわかりきってるんだけどね。
「……暖かい陽射しの代わりに冷たい目線が僕を射してる様な気がするけど、気のせいかな……」
「気のせいちゃうと思うね」
瞑っていた目を片方だけ開けると、そこには一つの白い物が…………ぐげっ。
「どこ見てんのや、アホ」
容赦なく、白い物の下にある足が僕の顔を踏んだ。その向こう側で関西弁の少女が怒りはさほどないにしても、呆れかえった声で僕を叱責した。
「口に出して良いのかい?」
「あかんわ」
足をどけてもらった僕は第二撃が来る前に頭の位置を変える。
「全く、いつまで昼休みしてるつもりなん?」
「とりあえず委員長が呼びに来るまでだね」
はぁ……と、彼女がため息をついた。
「ため息をつくと幸せが逃げるって言うよ」
「じゃあ、アタシの幸せが逃げたら広見ちゃんのせいやね」
…………。
「広見ちゃんはやめるって約束じゃなかった?」
「はいはい、衣笠くん。アタシの体力を消費させへんように努力してくれるんやったら、ちゃんと守るわ」
「ふむ……それについては善処するつもりはあるね、草津さん。とりあえず、消費した体力をここで回復すると良いよ」
うん、我ながら名案だ。
「なに、アホな事言ってんの?」
おっと、今度の口調は怒りが含まれてるね。うん、彼女愛用のノンフレームの眼鏡がギラっと光った。大抵の奴は、これを見たら逆らえなくなるだろう。けど、僕には通じない。
「いや、大真面目さ。陽射しは暖かいし、風は気持ちいいし、風景は秋に色づいて綺麗。最高じゃないか」
にこやかにそう告げた時には彼女から怒りは消えていた。
まぁ、このロケーションと環境の良さから発せられる誘惑にはそうそう耐えられるものじゃない。
「……ふう。しゃあない、こっち来ぃ」
そう言って、彼女は僕に立つよう促した。
「こっちって、どっち?」
促しに呼応せずに寝転がったまま、僕は聞く。
「こっち。そんな所に二人して寝転がってたら、すぐバレてまうやんか」
いや、その意見には賛成だけどさ、ネクタイ引っ張らないでくれないかな?
首、思いっきり絞まってるんだけど。
そんな事を気にしないまま、彼女は屋上の更に上へと通じるはしごの前まで僕を引き摺った。
うん、彼女って結構、力持ちで非情なんだな。二つ新発見。
「はぁーー、気持ちええなぁ」
上に上がってから開口一番にそう言って、 彼女は体を伸ばした。
「うん、そうだね」
相づちをうって、僕は彼女の隣に座る。
「はぁ、何か心身共に洗われる気分やね」
そう言って、彼女は眼鏡を外して首を回す。肩こりしてるのか、付け根辺りからゴキゴキ鳴った。
「オヤジ臭いね。天下の委員長様が」
「広見しか居いひんのに、委員長する必要ないやん」
僕を見下ろして、彼女は微笑んだ。
「光栄だね、薫」
普段は真面目な委員長をしている彼女も、こうして僕の前だと素の『草津薫』になる。まぁ、それでも少々お堅い部分があるのは、根が真面目だからだろうな。 はっきり言って、僕とは正反対の人種。
でも、不真面目を地で行く僕とは正反対だからこそ、馬があった。