ZIPPO━T━-1
『ねぇ、何これー?』
夜の風があたし達の間を走り抜ける。
結構好きかも。
『ん?ああ、ジッポやん。見りゃ分かるやろ、ボケ』
月の光に照らされてあなたが笑う。
『かっこいいね、これ』
その月の光にジッポをかざしてみた。
真っ黒のジッポが月の光に照らされてくっきりとその姿を現した。
『それな、どこにも売ってへんねん』
隣のあなたが携帯をいじりながら呟く。
『マジで?なんで?』
よく見ると、ジッポには小さい白い文字が刻まれていた。
『ツレのバーのジッポやねん』
『……いいなぁ。欲しいなぁ』
『やらへんで』
月の光がいつの間にか携帯の光に変わっていた。
少し切なくていつまでもそのジッポを離す事が出来なかった。
あの日から何日か経った。
あたしは煙草に100円ライターで火をつける。
隣にはあなた。
結局、毎日会ってる。
何にもないのに。
『あっついわー』
昼間は苦手。
あなたの顔がハッキリ見えてしまうから。
あなたが何を見つめているのか見えてしまうから。
『やるよ』
あなたの手には黒いジッポ。
真っ黒のジッポ。
『え?なんで?』
『…お前欲しいゆうてたやんけ。車にもう1個あったからな。やる』
『いいんスか!?ありがとう』
あなたの笑顔は昼間に見るものじゃない。
あなたからの初めてのプレゼント。
真っ黒のジッポ1つ。