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終わりなき旅
【二次創作 その他小説】

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終わりなき旅-1

全てを失った。
家庭も仕事も何もかも。
息を切らしながら走る。
そう過去を振り返らないように。
やり直したい。
戻りたい。
望めど叶わない願い。
自分が放っていた情熱も光も安っぽく思えた。
重圧に耐えながら駆け抜けた道がザッサリと切断された。
ただ明日のことを考える。見えない未来への畏れ。
命を削ることは、守るべき誰かがいてこそできる芸当。
今じゃもうできない。
君がいないから。
まだ見ぬ未来が、急かしてくる。
もっと在るべき形があるって叫ぶ。
嫌なことばかりだ。
焦燥感。
絶望。
うまくいきすぎた。
酔い痴れていた。
失ってから気付いても遅すぎる。
期待はもたない方がいい。
傷つくだけだから。
だけど、まだいくつも目の前にはドアがある。
未来に繋がる入り口がある。
可能性がある。
ノックできない。
失うのが怖いから。
始まるのが怖いから。
ドアに背をもたれて崩れ落ちる。
はやく開けてよ。
って声が聞こえた。
自分の声だ。
耳を塞ぐ。
弱い人間だ。
また同じことだ。

わかってる。
勇気がないだけだって。
嫌なことばかりじゃなかった。
幸せをくれた。
愛をくれた。
進むことが、幸せも痛みも愛も喪失も全てを与えてくれる。
苦労して手に入れたものを宝物のように抱き締めているうちに手放せなくなってしまった。
保守的。
守りに入った人生。
それでよかった。
十分だった。

もう失いたくない。
ドアはやはりノックできない。
涙が落ちる。
過去の亡霊が囁く。
思い出は傷つけないよ。
甘い声で。
現実に引き戻すかのように
電話が鳴る。
声を聞いて
涙が溢れる。
手にしたものの重さと優しさを痛感する。
勘違いしていた。
手放したのは自分だった。
握った手を自ら離したことを忘れたかったから。
涙で視界が滲む。
ぬくもりを感じた。
懐かしいぬくもりを。
声がする。
大好きだったあの声が。
抱き締めてくれている。
大丈夫だよって背中を押してくれている。

ありがとう。

涙を拭いて立ち上がる。
もう迷わない。
この重いドアの向こうでまた巡り会えるかな

ノックしよう。
まだ終わらない旅の途中だから。


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