堕天使-1
浮遊感。
翼、その先端に風を感じる。
舞い上がる。
風を切る。
風圧。
肌が焼けるように熱い。
渇望。
全てを手中に収めようと
『彼』はもがいた。
糸くずのような可能性に縋り、在るべき己れの存在価値を否定続ける。
舞い上がる欲望。
あと少しで手が届きそうだ。
あと少し。
掴めそうで掴めないモノに『彼』の物欲は呼応していく。
高まる鼓動。
留まることなく飛び続ける。
『彼』の存在意義を打ち消していくことで
『彼』は解き放たれた。
自由を求めたかったわけじゃない。
傷つけたかったんじゃない。
自分に言い聞かす。
まばゆい光に包まれ始めてから、
気付いた。
届かないことを。
疑いの雲が全てを包み隠した。
今までの自信も強さも
青白い悪意のこもった衝撃が『彼』を貫く。
羽は焼け焦げて鮮血が滴る。
唇を噛みしめて
なぜ?
と尋ねた。
もちろん答えはない。
求めてしまったから。
欲してしまった罪を与えられた。
急降下。
放たれた欲望は絶望にすり替わり
一直線に大地へと向かう。
『彼』の意識の中で悪意が膨らみ始めた。
堕ちゆく景色が黒く染まる。
煌めきを失った肢体が黒ずんでいった。
痛みと屈辱の中で重力に逆らえない己を彼は呪った。
自分を見捨てた全てを。
微かに震えを感じる。
畏怖。
劣等感。
翼を失った『彼』は
悪意という原動力だけが支えになった。
そう黒い感情が生きる糧。
それでも生きたいと叫ぶ本能。
再び衝撃が貫く。
初撃と違うのは心地よさすら感じること。
『彼』は悟った。
在るべき世界を間違えたことに。
縛られていたことに。
強く噛み締めた唇から血が垂れ落ちた。
笑う。
世界に対する大逆を犯した。
笑う。
常識を失ったことに。
『光在れ。されば闇もまた在らん。』
つぶやき『彼』は姿を消した。
堕ちゆく天使は闇に消えた。