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ママのふうせんうた
【家族 その他小説】

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朝の図書室で-4

 私は目の中が、熱くてクシャクシャになった。

 (これ、ママのふうせんうたやんか……)

 私が小さかったころ、
 ガスが少し抜けて、浮力が弱くなったふうせんを、ポンポンついて宙に浮かべながら、ママが歌ってたうただ。

 私は このうたが大嫌いだった。
 「歌わないで!」とママからふうせんを奪いとった。
 そのうたみたいに、ママが会えないところへ行ってしまうのが怖かった。
 だから、本でもテレビのドラマでも、ひとが死ぬお話は見たくなかった。
 「死ぬ」とか「死ね」なんて事を軽々しく言ったりしなかった。
 そうすれば「死」は遠ざけられるものだと思ってた。
 なのにママはあっけなく、私と連絡のとれない所に立ち去ってしまった。

 それにしても、江いはなんで このうたを知ってるんだろう。
 意外とポピュラーなわらべうただったんだろうか。

 間違っても 江いにママが入りこんで、二人の日々を想い出さそうとしたなんて、思えない。
 ママがこんな歌を、今の私に聞かせようと考えるはずがないもん。

 でも、江いが私に こんな風にベタついたふれ合いをするようになったのは何時ごろからだろ?
 その事も、ノートを見ればわかるだろうか。
 そんなことを考えていると、図書係の子の声がした。

 「江いさん、そんな事するから 沙なさんが困っとるよ。」

 いつのまにか私は、江いのひざの上に座っていた。
 
 江いは私の後ろから、図書係に冗談めいた口調で言った。

 「でも、大事なひとりむすめやからねぇ〜」


 【おしまい】
 
 

 


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