朝の図書室で-2
その二年間、私は何をしたのか不思議なほど覚えていない。
気がつくと私は、ママと私が読んでた たくさんの本といっしょに、ママの姉である一人暮らしのおばさんの家に引越していた。
気がつくと私は、高校に進学していた。
そこそこの女子高校で、それに学費の一部免除を受けている。
進路を誰と決めたのか、どんな受験勉強をしたのか、全くわからない。
ただ、私は何冊もの手帳大のノートに やたら細かい字でそのころの心の動きなんかを綴っているみたいなんだ。
それを見れば、飛んでしまった二年間の出来事がわかりそうだけど、まだそれを読み返す気になれない。
ふ と私のうしろから、胸のほうに手がまわされた。
手のひらがおっぱいのすぐ下にあたった。
別に騒ぐことじゃない。これは同級生の「江い」のしわざだ。
私がノートを閉じると、彼女は話しかけてきた。
江「ねえ…… ええことしとっても、ええことあらへんね……」
私「……そうかも知れへんね。」
江「……昔ばなしとかやったら、悪さしたモンがエライ目におうて、ええことしたモンが成功するのに、実際は悪いことでも 要領よくやったモンの方が成功するんやね。」
私「……何かあったん?」
江「……特に何もないけど、世の無常を感じるストーリーを読んでしもてね。」
私は心の中で、彼女のその一言に苦笑した。
(世の無常、しかもストーリーやんか。
何を言うとるんやろな…… アンタはママもパパも元気でおるやんか。)
江いは机の上の三色ボールペンを手にした。
黒、青、赤、ペンの三つのレバーで芯を出し入れしてカチッ、カチッ、カチッと鳴らしてリズムを刻みながら、歌を口ずさみだした。