第16話『生理中』-1
10月○日
中央広場に裸馬が集められていた。 学校へ行く前に、少し寄り道して様子を伺う。 裸馬は4列縦隊で、背筋を伸ばして並んでいた。 軍馬に比べれば、爪先が伸びてなかったり顎を引いてなかったり、視線が一点に集中してなかったりと、色々不備がある隊列だ。 ……まあ、あたし達の運動会に比べれば、随分しっかりした隊列だと思うけど。
いつもと少し様子が違うのは、全員が太腿同士をくっつけて足を閉じている。 遠目に見ても足の筋肉がモリッとしていて、力を籠めているようだ。 騎兵が1列ごとに錠剤を配るのだが、口に入れたり、手渡ししたりはせず、4つ同時に放り投げる。 裸馬は足を固定したまま口を拡げ、顔だけを動かし、飛んでくる錠剤を口でキャッチした。 (キャッチできなかった裸馬は、落ちた錠剤を直接口で咥え、どんくさい態度へのペナルティだろうか、乗馬鞭でお尻に痣をつけられていた) 5分もしないうちに、錠剤を呑んだ裸馬が立ったままモジモジしはじめる。 息が荒れ、背中を丸め、腹痛を堪えるというか、お腹を庇う恰好だ。 やがてブルッと震えたと思うと、裸馬の脚が赤く染まって、一緒に様子を見物していたクラスメイトが悲鳴をあげる。 おうせ、裸馬たちが怪我をした、もしくは足を斬られたとでも勘違いしたんだろう。 あたしは違う。 あれは、どうみてもオマンコから溢れた血だ。 ということは、裸馬はあんな風に、立ったまま生理にされるんだろう。 裸馬は血がこぼれるのを防ぐためか、内股になって足を閉じていたが、横になることは許されていないらしい。 クラスメイトが広場を逃げだしたあとも、あたしはしばらく様子を見ていたが、生理が始まってからも直立姿勢は崩さなかった。
あんまり寄り道している時間がないから、あたしも学校へいくことにした。 で、放課後帰り道――今日は午前中で放課な日――、広場の横を通ったら、何とも言えない異臭がする。 まさかと思って寄り道したら、広場には朝のまんま裸馬たちが真っ直ぐたっていた。 どのウマの足許にも、小さな血だまりができていて。 いつもは涼し気な広場なのに、今日に限って言えば……もう止める。 書いていて気分が悪くなってきた。
朝のHRで、全員が『2ch』を鑑賞した。 内容は、やっぱりというか、生理絡みで……あたし達もこないだ全員が同時に『生理』になったけど、その舞台裏を知ったというか、知らざるをえなくなったというか、そんな感じだ。 正直無理矢理『生理』にされたことは腹がたったけど、もし『生理』になってなかったらと思うと……ゾッとする。 ちゃんと生理してくれた自分の身体に感謝しなきゃ。 健康第一、とはよくいったものだ。 こんなことで一々感謝するなんて、本当はバカげてるハズなんだけど……。
今日の新しい法律も、理不尽さならトップクラスだ。 『容姿統制法諸条例の拡大解釈第1項』といって、『体毛』に関する規制だったりする。 腋毛、髭、産毛は全て『強制永久脱毛』、陰毛は毎日処理して『完全無毛』を維持、髪の毛は『眉上1〜3センチで全員オカッパ』……なんだそうだ。 元々オカッパなあたしはどうすれば……いや、まあ3センチまで短くすればいいんだろうけど……。 ちなみに今後も『第2項』『第3項』と項目が続くらしく……もう好きにして、って感じで、どうでもいい。 クラスのみんなも、髪を大事にしてたサトーさんを含め、意外なくらいアッサリしていた。 まあ……今更『髪型』がどうとかいわれても、もっとヤバイことを散々されてるわけで、淡白なリアクションになっちゃうのもしょうがない……かな。
それにしても、改めて考えると、女ってホントに不公平だ。 そもそも、なんであたしたちには生理なんてものがあるんだろう? なんで、こんなにシンドイ思いをして、その上『生理中』『真っ赤』『ドバ子』みたいにバカにされなくちゃいけないんだろう? いままでは、それでも自分が『生理』っていうのを内緒に出来たけど、これからはオープンにしなくちゃいけない。 はぁ……あたし、なんで女なんかに生まれたんだろう……鏡でオマンコを映すたび、最近特に、女な自分が嫌になる。