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ゴヤ・シンドロームの男
【その他 官能小説】

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結末-1

 俺はある高校の卒業式を見ていた。
 卒業生の関係者のような顔をして正装して参加した。
 そして式が終わった後、彼女を見つけてすれ違いざまに声をかけたんだ。

「おめでとうな」

「うん」

「就職決まったって?」

「うん」

「じゃあな」

「うん、また後で。えーと」

「なに?」

「来てくれてありがとう」

「あたりまえだろ、ばーか」
 

 会話はそれだけ、ちょっとだけ立ち止まったかも。

「誰、今の人?」

「彼氏よ、彼氏」

 そんな声が背中の方に聞こえた。




 ああ、そうだった。
 俺はあの晩夢を見た。
 もう何ヶ月も前のことだから、はっきり覚えてはいないが、体も心も裸の女たちの夢を。

 あの夢の時には、俺は相手の心をコントロールできなかった。
 どうしてかというと、コントロールすれば相手の本当の裸の心を知ることはできないからだ。
 俺に都合の良い『心の声』は本当の心じゃない。
 そして夢の中で俺自身も偽装することはできなかった。
 相手の裸の心を知るには、自分も偽れないらしい。
 老賢者はそう言ってた。

 裸の心は実に遠慮がなかった。
 俺の容姿容貌、性格、持ち物、殆どがダメ出しのオンパレードだった。
 そういう相手と無理やりでもできたかもしれない。
 可能性の問題で言えば、不可能ではなかった。
 どうせ夢の中なんだから、相手を無力化することくらいはできたと思うし、その記憶は潜在的な傷として残るかもしれないが意識の上では忘れているだろうから、道であっても指弾されることはないだろう。
 だが実際的に無理だった。夢の中でもそれはレイプと同じで、俺の好みではない。
 だからあの時は誰ともしなかった。
 ただ味噌糞に言われながらも一人だけ、言われたことが気にならない子がいた。
 俺がその子の裸の心に触れて、逆に守りたくなってしまったのだ。
 夢の中でもセックスはしないで、その後もずっと付き合った。
 夢の中で付き合ってから、向こうも好意をしめすようになり、現実でも一度お互いの本人確認のために会った。

 今日で二回目だ。
 そして今夜は夢の中でお互い体を許し合う約束をしている。
 今後どうなるかは俺にも分らない。

 だが、あれ以来、現実でも夢の世界でも女性の裸は見ることができなくなった。
 俺のゴア・シンドロームは本当の裸に触れたとき、治ってしまった。
 裸を覗くのは良いが、心まで覗くのは止めた方が良い。
 治したくない病気まで治ってしまうからだ。
 治った途端、夢で交わった女とも縁が切れたようで、現実の世界で途中で会っても素通りされている。

 だが癪に障ることに、老賢者だけが時々夢に現れて俺に色々説教して行く。
 お前も消えてくれよ、と言いたかった。


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