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「幸太は、アタシの身体だけが目当てだったの。別にアタシに好かれる必要がないから、エッチだって自分本位のものばかり。結構スゴいこともしてたけど、それだって『カノジョとはこんなことできないから』ってだけなの」
天井を仰ぐ女の顔から胸元に視線を移すと、なるほど細身の割に胸が結構大きく、ゆったりしたカットソーの上からでもよくわかった。
女曰く、自分が浮気相手になったのは、カノジョ、すなわち美樹と全然タイプが違うからだったらしい。
華奢で胸が小さい美樹とは対象的に、女の身体は胸とお尻がやや大きめのグラマーな体型で、一般的に言う男好きのする身体であった。
悔しい気持ちはもちろんある。
下唇はさっきから血が出そうなほどに噛み締めているし。今にも女を殴りたくて手はガクガク震えている。
だけど、女がさっき言った『浮気をされた本命と日の目を見れない浮気相手、どっちが惨めか』という言葉が美樹の心を迷わせていた。
「だから、アタシが幸太と会ってもヤるだけ。それだけだから、幸太がヤりたくない時は会えない。アタシが生理の時も会えない。クリスマスとか誕生日だって、当然なし。アタシがいくらお祝いしたくても、証拠を残したくない幸太にとってはアタシからのプレゼントなんて邪魔なだけなの」
女の声が震え出した。きっと、自分の現実に、悔しくてたまらないのかもしれない。
美樹は、自分が幸太にあげたプレゼントのことを思い出していた。
腕時計、バッグ、洋服、靴、ネクタイ……プレゼントしたものはたくさんあるけど、そういえば幸太はずっとそれらを大切に使ってくれている。
「アンタは声が聞きたくなった時、いつでも幸太に電話できるでしょう? クリスマスとか誕生日も一緒に過ごせるでしょう? 一緒に街を堂々と手を繋いで歩けるでしょう? ……アタシはそれが一切できないのよ」
天井を仰いでいた女の目尻から、ついに一筋の涙が流れ落ちた。
不意に、美樹の胸がズキンと痛む。
浮気された自分が被害者、それは揺るがないけれど、日の目を見ることがない浮気相手、こちらもこちらで結構キツイのかもしれない。