1-5
女は、投げつけられたボックスティッシュをガードすることはなかった。
女の顔面にバウンドしてから、ボックスティッシュは力なくフローリングの上に落ちた。
「あ、ごめ……」
勢いのままにそれを投げつけた美樹も、まさか女が顔をかばわないとは思わなかったので、思わず謝る。
すると、女はまたあの寂しそうな顔で笑って、静かに首を横に振って、ポツリと呟いた。
「浮気される本命と、日の目を見ない浮気相手って、どっちが惨めなんだろうね」
「アタシが幸太と関係を持ってから、もう1年になるかな」
静まり返った部屋で、女はそのまま口を開く。
「え……?」
びっくりしたように女の顔を見ると、彼女は大きなため息を一つ吐いた。
「気付かなかったでしょ」
「…………」
女の言うとおりだった。
最近でこそ、この部屋に自分以外の女の形跡があちこちで見つかって、幸太の浮気を疑い始めた美樹だったが、それもごく最近それが始まったものだと思っていた。
それが、まさかそんな前からだったなんて。
「幸太は、アタシがここに来ても、絶対に髪の毛一本残すなって言ってたから」
「……嘘」
幸太と交際していて、浮気をしているような怪しいところなんて微塵もなかった。
幸太の笑顔が一気に色あせていくのがわかる。
身体は震えているのに、嫌な汗が美樹の首筋をツウ、と伝った。
「それは、アンタにアタシの存在を知られたくなかったからよ。だから、アタシから連絡するのはダメ、一緒に街を歩くのもダメ、会えるのは幸太の都合のいい時にこの部屋でだけ。それでもアンタとの約束があれば、前からアタシが約束していてもドタキャンされる。二番手ってこんな扱いなのよ」
「でも……!!」
アンタは幸太と秘密を共有していたじゃない、そう言いかけて、美樹は言葉を飲み込んだ。
女が天井を向いて、必死に泣くのをこらえているのが見えたからだった。