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幸太は美樹にたくさんの幸せを与えてくれた。
連絡はマメな方。イベントも大切にしてくれる。
旅行だって最低でも年一回は必ずするし、互いの実家にもよく行き来をした。
お互いが社会人になって、仕事にも慣れてきた今、結婚の話題もよく出て来て、そろそろ式場の下見にも行ってみようかと話をしていたその矢先に。
こんな女に負けたのだ。
歯を食いしばっても流れ落ちる涙を止めることはできなくて、美樹は悔しくてたまらなかったのだが、女の差し出したティッシュボックスに手を伸ばした。
「そんなに悲しい?」
女は、美樹が泣きながら鼻をかんでいるのを不思議そうに眺めていた。
バカにしているとか、そういうんじゃなく、本気で美樹が悲しそうに泣く理由がわからない、そんな視線だった。
「……は? アンタバカじゃないの!? 彼氏が浮気していて、悲しく思わない彼女なんているわけないでしょ!!」
この女、下品なだけじゃなく頭も悪い。
いや、浮気相手になるような女だから頭が悪いのか。
とにかくまともな感覚を持ち合わせていない女に、美樹は思いっきり睨んでやった。
だけど、女は怯むことがなかった。
代わりに、少し寂しそうに笑うだけだった。
「悲しい、か。だったらアタシの方が悲しいんだけど」
「何言ってんのよ」
「だって、アンタは幸太に一番大切にされてるから。アタシはアンタの方が全然うらやましい」
呆気に取られたように女を見る。
本気で言っているのだろうか、ポカンと口を開けたまましばらく固まっていた美樹は我に返ったように大声を張り上げた。
「バカにしないでよ!! 幸太はあたしの知らない所で、あたしを裏切ってたのよ!! それで大切にされてるなんてよく言えたもんね! 幸太と陰であたしを笑ってたくせに……!!」
“アンタの方が全然うらやましい”なんて、どの口が言うか。
美樹はボックスティッシュをつかむと、女の顔面目掛けて思いっきり投げつけた。