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高校の時から付き合っていた美樹と幸太。
周りからはおしどり夫婦と評判で、付き合ってそろそろ8年になるところだ。
たくさん喧嘩もしたし、たくさん思い出も作ってきた。
時々他の男から告白されたこともあったけど、それでも美樹には幸太以外の男なんてまるで眼中になくて、幸太もまた同様で。
だから美樹はこのまま幸太と、平穏にゴールに向かって行くものだと、そう思っていた。
そんなキラキラした軌跡が一気にモノクロ化したような気がして、頭が真っ白になる。
それでも身体だけは感情に正直で、ヒックヒックとしゃくりあげるほど涙が溢れ出し、身体は震え出していた。
するとその時、スイ、と視界にボックスティッシュが入ってくる。
「…………?」
美樹が顔を上げると、女がこちらにティッシュの箱を差し出す所で、そんな訳のわからない優しさとは裏腹に、何か不満でもあるようなふくれっ面でわざとそっぽを向いていた。
傷んだロングヘアー。露出だけが売りのような安っぽいギャル服。そして、すっぴんなのか眉毛がほとんどない薄い顔。
自分は、こんな安い女に負けてしまったのか。
美樹は、これ以上涙を流すのが悔しくなって、ギリリと歯を食いしばりながらなんとか涙を喉の奥に押し込んだ。
幸太は昔から女の子に人気があった。
勉強は苦手だけど、スポーツは万能で、小学生の頃から続けてきた水泳のおかげで、バランス良くついた筋肉が背の高い幸太をより魅力的に映し出していた。
そんな幸太の横にいつもいた美樹。
幸太に比べたら、決して目立つタイプではないけれど、色白な肌にサラサラの黒髪ストレート、さらに華奢な身体つきの彼女は、彼の理想のど真ん中だった。
二人の交際は、高校一年生の時から。幸太の猛アタックで始まったのである。