第4話-5
「そう言う事ね、大体…貴方達の事は分かりました」
僅か数秒もしくは数十秒、データのパネルを開いただけで、ジュリはWBのデータを戻す。
「今ので、何が分かったのですか?」
「貴方達は、『文明時代』の記者達で、今回記事にする内容に行き詰まり、最近起きた世間があまり目を点けない出来事の関連から、総合的に私達の処へと足を運んだ。内容としてはアンドロイドと人間との私生活を纏めた記事に仕上げたかったのですね。週間誌らしく批判的な内容で…。違いますか?」
的を射た意見にムラタは、おぞましい物を感じた。まだ自分達がどうするかも言わない間にジュリは相手の狙いを言い当てた。
「ハハ…面白い被害妄想ですね。我々は、何も世間を批判する様な内容ばかり書いている訳では無いですよ。むしろアンドロイドと人間をテーマに記事を書きたいとさえ思っているほどです」
ムラタは苦笑いしながらタバコに火を点ける。
ジュリは「フ…ン」と、少し疑った目で相手を見つめる。
「貴方達は、今日タナカ・コーポレーションに行きましたね。その時、そちらのシライシ君がお茶を運んで来たアンドロイドのユキちゃんに見惚れている時に貴方はユキちゃんに対して『疑似人間』とおっしゃりませんでしたか?」
それを聞いてムラタはタバコの煙を吸い込んでゴホゴホと、咳き込む。
「ええ〜!貴女、その場にいたの?」
「何で知っているのですか?」
「貴方達の事は、大体分かったと言いました。私はアンドロイドに対して批判的な感情を抱く方には話す言葉はありません…。申し訳無いですが、これ以上貴方達と話す言葉はありません」
「ちょっと、我々の意見も聞かないうちから、立ち去るのですか?」
「私が貴方達に協力すれば、それが原因でアンドロイドと私生活を共にしている多くの方達に迷惑が及びます。自分達は雑誌の売り上げが伸びる事で嬉しいかもしれませんが、その一方で傷付く人達が大勢現れます。それに…私は行き場の無かった、自分に手を差し伸べてくれた大切な人に恩を感じ、尽くそうと思ってここに居ますが…貴方達に協力して、私の大切な人を傷付けたくは無いのです。もし…仮りに私達の関係を引き裂く者が現れたのならば、私は誰であろとも容赦しません。例えそれが国家的な相手で在ろうとも自分達の関係を守り抜く覚悟はあります」
そう言ってジュリは、公園のベンチから、皆が待っている場所へと向かう。
「クソッ!」
ムラタは悔しそうに煙草の火を携帯灰皿に入れて立ち上がる。
「帰るぞ!」
「あ…ハイ」
2人はロボタクシーを拾って乗って帰る事にした。
「上手く行きませんでしたね」
「偉そうな事ばかり言いやがって虫酸がはしるわ。少しはこちらの意見も聞けって言いたい位だがな…」
「でも…僕はジュリちゃん見たいな人だったら、アンドロイドでも構わないと思っちゃいますね…もう一度会いたいな…」
「けっ、あんなアンドロイド、人前じゃぁ、良い事言うが…裏では何して居るか分からないぞ」
「え…どうしてですか?」
「あんだけ美人ならよ、毎晩…金で色んな男に股を広げてたりして、相手して貰ってもおかしくは無いさ、そのうちアンドロイドAV嬢って言う名前で動画とかに出て来るかもしれないぞ」
ムラタが笑いながら話していると、ムラタのWBが着信を受ける。知らない番号で動画チャットを受けると画面にジュリの顔が現れた。
背景には、大勢の子供達の姿もあった。
「お取込み中すみませんねムラタさん」
「何の用ですか一体?」
「先ほどWBを操作した時に貴方の会話を、聞ける様に設定して置いたのよ。私…」
それを聞いてムラタは背筋が凍る思いをした。
「面白い事を言いますね貴方…私って随分と見下げられたものですね。アンドロイドAV嬢ですか…」
ジュリは微笑んで言うが、その表情は明らかに怒りを込めた言い方だった。
「1つ言い忘れてました、私は遠隔操作も出来るのよ。貴方達の為にちょっとしたサプライズを用意して置きました、無事帰れると良いですね。それでは…」
画面が消えて、呆気に取られたムラタ。ジュリのメッセージを隣で聞いていたシライシは、ある事に気付く。
「ム…ムラタさん!」
「どうした⁉」
「こ…これを見て下さい!」
ムラタがロボタクシーのメインモニターを見ると目的地が青森県と記されていた。
「お…おい、ウソだろ⁉」
「東京から青森までは700km以上あります。しかもタクシーだと…」
それを聞いてムラタは顔面が蒼白になった。まさか…ここまで相手が仕組んで来るとは思えなかった。自分は恐ろしい者を相手にしまった…と後悔した。
「ちょっと、目的地の変更をお願いします」
『目的地は登録済みです。変更出来ません』
モニターの音声が答えた。
ロボタクシーは首都高に入り、勢い良く北に向かって走り出す。
ムラタが無事東京に戻れたか不明の中、数日後…ジュリは図書館へと行く。既に読む本など無いが…とりあえず息抜き程度に利用していた。
その時、自分に何者かが近付いている事を察知して館内を歩き始める、辞書類が並んだ場所を選んで歩いて行く。辞書類がある周辺は人気が1番少ない場所だった。
相手が識別出来ず、ジュリとしては初めて危険な存在を認識した。沢山の書籍が並ぶ中、ジュリは足を止めて自分の向かい側に立つ者を見た。
ジュリの向かい側に立つ者は、背丈が低く、小学校高学年〜中学生位の、あどけなさを感じさせる少女だった。彼女はジュリを見つけるなり笑みを浮かべて話し掛ける。
「初めまして、お姉ちゃん」