女の子の帰り道に待ってたもの-2
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男はゾウ助という、この近くのアパートに住む30代の者だった。ゾウ助は親が営む店に勤めているが、この時間になるとアパートのまわりに隠れて、下校する小学生たちの姿を眺めるのを常としていた。
ゆえに、みつ絵の姿はさっきから認識していた。誰かが石垣に置いたタバコを手にした所も見ていた。
そして、自分の住むアパートの敷地に入りこんできたのを見ると、みつ絵を追わずにはいられなくなった。
ゾウ助は、みつ絵が持っていたタバコを静かにつまみ取ると、携帯灰皿の中におさめた。そしてみつ絵に話しかけた。
「こんな、落っこちてたタバコなんか口にしたらキタナイでしょ。」
「はい…… ごめんなさい。」
みつ絵はうつむいた。ゾウ助は寝そべらんばかりに姿勢を低くして、そのうつむいた顔を見上げるように言った。
「俺、別にキミを怒ろうなんて思ってないよ。」
ゾウ助はみつ絵の前に手をのばした。
「タバコ…… 吸ってみたいんでしょ。」
ゾウ助がのばした手には、タバコの箱があった。
「これならキレイだから…… 一本どうぞ。」
みつ絵は初めて真新しいタバコを手にした。
(タバコって、こんな優しいニオイがするんだ……)
しかし、ゾウ助から手渡されたライターには戸惑っていた。そのようすを見てゾウ助は微笑んだ。
「火の…つけ方知らないんでしょ。」
みつ絵はうなずいた。
「……まず、くわえたタバコでジュースを飲むみたいに空気を吸うんだ。それで、ライターの火を近づけると火がつくんだけど、煙が口の中に入ってくるから 吸いこまずに口にホールドしてね。」
(そっか……そうするのか。)
みつ絵は一瞬、口の奥にまで広がったニガイ味の煙に負けそうになったが、うまくおしとどめて煙を吹きだすことができた。
「やる── 大人だね。」
みつ絵はタバコをくわえては、煙を口もとにためて吹きだすことを繰り返してみた。ゾウ助は言った。
「それが『タバコを吹かす』ってことなんだよ。キミぐらいだったら『吹かす』くらいがちょうどいいんだ。」
ゾウ助は、みつ絵に頬ずりするくらい顔を近づけた。
「ねえ、うまく吹かせてるかどうか確認したいから、僕の顔に煙をふ━━っ、てかけてくれないかな?」