耳元の誘惑-6
◇
ーーああっ、飛坂……!! 気持ちいいっ……!
ゴクリと生唾を飲み込んだ所で我に返る。
ここ最近、頭から離れないのは相馬友美の痴態であった。
あの保健室での出来事から、もう1ヶ月が過ぎようとしているけれど、未だに飛坂の耳には友美の淫らな鳴き声が、脳裏には友美のあられもない身体がこびりついて離れなかった。
しかし、あの出来事以来、友美と話をしなくなった飛坂は、どこかもどかしい思いを胸に抱えながら悶々とした日々を送っていた。
当の友美は至って涼しい顔して授業を受けているし、飛坂以外のクラスメイトに接する時も普段通りだ。
まるで、あの保健室での行為が幻であったかのような、そんな気にさせるほど、友美はいつも通りに見えた。
だから、飛坂だけが上手く切り替えを出来ずにいる。
話をしないと意識をしていると思われるから、話しかけようとするが、結局意識し過ぎて話しかけられない。
そのくせ、頭の中は、友美とのセックスを思い出してばかりで、初めて女の身体を知ったあの例えようのない快感が忘れられない飛坂は、コソコソ彼女の姿を目で追うだけだった。
「飛坂、最近元気がないじゃないか」
ボンヤリ友美の事を考えていた所に、背後から声を掛けられた飛坂は大げさに身体を強張らせた。
「あ、芦屋先生……」
野球部の練習が終わり、片付けをしていた所で彼の顔を見上げると、芦屋はいつもの愛想のない顔をこちらに向けていた。
「何か悩みでもあるのか? 最近練習中もずっと上の空だし、こないだの保体のテストもイマイチだったし、らしくないじゃないか」
「いや、そんなことは……」
ふと目を反らせたのは、やはり相手が芦屋だから。
体育教師で野球部顧問の芦屋は、生徒指導の先生でもあり、その強面な顔立ちと、鍛え上げられた大きな身体は威圧感が半端じゃなく、学校中の生徒が彼を恐れていると言っても過言ではない。
飛坂は、自然と心拍数が上がるのを悟られないよう、用具を片付けていた手を止め、まっすぐ芦屋に向き直った。