怒り-1
スタートすると、剛は、ゆるゆるとバイブを上下に動かし始めた。手でユックリ持ち上げ、行き止まったらバイブ自体の重みのよる自然落下に任せる。これを単調に繰り返した。
決して強引な動きや変則的な刺激はしなかった。もちろん。約束通り、スイッチはオフのままだった。静かな勝負の始まりとなった。
使っているバイブは、もともとGスポットを刺激するための独特の形状なので、これで充分なのである。身体の内側からやんわりと刺激していく。
ボブが十秒毎にカウントダウンをはじめていた。落ち着いた声で時間の経過を告げている。
「残り……九分五十秒。……九分四十秒」
悩ましく淫らな感触に抗う美紀子の満身にピリッとした緊張がみなぎっていた。
(あと九分三十秒か。この程度なら……負けないわ。それにしても、なんというおぞましい動きなんだろう)
自分の手では直接触れることのできない女の急所を、規則的に嬲りものにするバイブが憎らしかった。
刺激というものは、単調であればあるほどしだいにそれが蓄積されていく。美紀子にはその恐ろしさがまだわかっていなかった。
「……七分五十秒。……七分四十秒」
美紀子の太腿の内側の筋肉が少しずつだが震え始めていた。スクリーンを兼ねたスカートのシルエットがピリピリと震えているのでよくわかる。
剛は依然として単調な刺激が続けていく。ただ、押し上げるときの抵抗が少しずつ変わってきているのが剛の手には伝わっていた。
根元近くまで押し挿れにくくなってきたことと、そして奥まで挿れたときに、先端の振れが増してきている。つまり、膣の入り口の締め付けが強くなり、奥の方が拡がり始めてきたためだ。男の射精を受け入れる準備を美紀子の身体が伝えていた。
目で見ても、バイブをより強く咥え込もうとするかのように、硬く立ち上がっている陰唇の捲れが際だってきた。
(あ、……あと、……もう、七分四十秒……我慢よ)
あぶら汗が額や鼻の頭に浮き出てきて、アイマスクと共にライトにキラキラと光り輝いている。
「あふっ……」
単調な責めによる愉悦感で、思わず喉から声が沸き起こる。
予定通りだということを、目のサインでボブに伝えた。
「……七分三十秒。……七分二十秒」
「ううっ……。うふっ……」
顔がのけ反り、小鼻がヒクヒクと膨らんでいる。アイマスクの横の血管が浮き出ている。
「あっ……あうっ……」
間欠的に切羽詰まったような声が無意識に出てしまう。何度もゴクッと喉を鳴らして唾を飲む音が聞こえる。
「どうだ、奥さん?……もう、限界か?……時折、ギュギュッとバイブを締め付けるんで、滑りが悪くなってきたぞ」
剛の余裕のある声が風呂場に響く。
「……六分三十秒。バイブのスイッチオンまで、残り時間は一分半です」
カウントダウンの声をうつろに聞く美紀子の身体に、間欠的に恥ずかしい大きな震えが起きていた。
腰の位置がしだいに下がってきていた。気がつくと膝頭が外を向いているので、何度も踏ん張り直す様子が見える。
バイブの上下動に合わせて、足の五本の指が順番に反り返っては戻ることを規則的に繰り返している。
「うっ……ああっ……うぅっ」
切羽詰まったような、震える息づかいの中に、自然と声が混じり始めた。
剛には美紀子の肛門が開閉を繰り返すのがよく見えた。最初はキュッと締まっていた肛門が、今は菊の模様が大きく緩んでは、慌てて絞り込むことを繰り返していた。そして、その緩んでいる時間の方ががしだいに長くなってきていた。
「……六分二十秒」
(あぁ、もう六分。もう、もう……)
美紀子の官能が騒ぎ始めている。油断すると意識が遠のきそうになってきた。
(今、ここで、バイブのスイッチを入れられたら……だめになっちゃう)
この瞬間にバイブを変則的に動かされたら、たちまち逝ってしまいそうな状況にまでなってきていた。
いつの間にか、出入りするバイブからは淫靡な湿った音が連続的に奏でられ、シルエットを映し出すスカートには水滴が転々と飛んでいた。
美紀子の身体には時折大きな熱い痙攣が走り、その度に腰が沈んだ。沸き起こる軽い絶頂を強い意志で抑えているのだろう。
「ううん……あはぁ……」
ただ、息が弾んでしまうのを抑えられないのが自分でもわかった。自我の崩壊が近づいていた。
「うん、はあああっ……」
もう、顔は汗みどろになり始めている。
「……六分十秒」
剛の表情に余裕の色がうかぶ。美紀子の強靱な自制力の崩壊が見えたのだ。
「それ、動きを早めるぞっ!」
剛は単調な自然落下にまかせた動きから、スピードを上げ、力を込めた激しい抜き差しに変えたのだ。
グチャッ、グチャッと恥ずかしい音が美紀子の耳にも届いている。
「やぁ、……やだぁ……」
思わず、拒絶の叫びを無意識のうちに上げていた。
「……六分」
「あううっ!」
ついに、美紀子が一声大きく啼いた。