最終話・・・男気-2
私は、この場を離れるかどうか迷いましたが、もし父からならば、もう形振り構わず、父に帰って来て貰って、母を止めなければと考え廊下にある電話に出ました。ですが、それは予想外の電話で、とある病院からの電話でした。私は内容を聞いて見る見る青ざめ、慌てて母の下に戻りました。悶えていた母でしたが、私の尋常じゃ無い様子に気付いたのか、男に愛撫されて荒い呼吸をしながらも、その視線を私から逸らしませんでした。私は、沈痛な表情で母に話し掛け、
「お、お母さん・・・お婆ちゃんが、お婆ちゃんが、脳梗塞で倒れたって・・・」
「エッ!?」
母は、私の言葉を聞いた瞬間、ハッと我に返りました。母は、男の愛撫する手を強引に振り払って、裸のまま慌てて電話口に向かいました。男は軽く舌打ちし、勝手に冷蔵庫から缶ビールを取りだし飲み始めました。私はそんな男を一睨みしながらも、母の電話での会話に耳を欹てました。
「命に別状はないんですね?・・・エッ!?でも、最悪寝たきりになるかも知れないんですか?・・・ハイ!ハイ!」
母は見る見る顔を青ざめ、その場に全裸のまま座り込みました。私は掛ける言葉も無く、只呆然とその場に立ち尽くして居ました。母にとって、実の母であるお婆ちゃんを、母はとても尊敬していました。母のお父さん、私のお爺ちゃんは、母が小学校に上がる前に亡くなっていて、お婆ちゃんは、女手一つで昼も夜も働いて、母を育て上げたそうです。そんな苦労をしながらも、愚痴一つ零さず、子供の前では笑顔を絶やさないお婆ちゃんを見て育った母は、自分もお母さんみたいな母親になれれば良いと言っていたのを、私はこの時、フと思い出しました。
母は、フラフラしながら居間に戻って来ると、男は待ってましたとばかり、再び背後から母を抱きしめますが、母は頭左右に振り、それを拒否しました。母は無意識のまま、ポツリと呟き、
「お母さんが・・・寝たきりになるかも知れない何て・・・」
「ハァ!?お前の母親か?」
「エ、エエ・・・私が母を見ないと!」
男に問われた母は、ハッとしながらも正直に答えました。私は、母が男に向けた視線から感じた限りでは、母は或いは、自分と共に母の面倒を男が見てくれるのなら、男の言う通り私達を捨てて、ソープで働いても良いと考えたのではないか?そう思うと私は恐怖しました。ですが、男は見る見る不快な表情を浮かべ、
「ハァ!?お前の母親が寝たきりなろうが知った事かよ!そんな死に損ない、ほっといてもくたばるだろう?それより恵美、そんなくたばりぞこないの母親何て放って置いて、俺と・・・」
男の暴言を聞いた瞬間、母の目付きが変わりました・・・
母は、険しい表情で後ろを振り向き様に、男の左頬に右手で平手打ちをし、男の身体が揺らいだ。
「テメェ、何しや・・・」
男の言葉が終わる前に、今度は男の右頬を叩いた。母は、目に涙を溜めながら、男を更に睨み付け、
「これ以上お母さんを侮辱するのは・・・絶対許さないわ!今直ぐ出てってぇぇ!!」
母は男に啖呵を切り、男に今直ぐ出て行けと叫びました。男は、金蔓である母を失うのが勿体無いと感じたのか、再び猫なで声で母に話し掛け、
「恵美ぃ、悪かったよぉ!なぁ、機嫌直してくれよぉぉ?」
そう言いながら、母の肩に右腕を回そうとした瞬間、触られるのも汚らわしいとばかり、再び母の平手打ちが男に飛んだ。
「触らないでぇ!二度と名前で呼ばないでぇぇ!さっさと出てけって言ってるでしょう?警察呼ぶわよ!!」
「このアマァ・・・恵美、俺にそんな態度取って良いのかぁ?旦那に言うぞ!」
「言えば良いでしょう?それ以前に、私から主人には話すわよ!!離婚されても、仕方のない事を、私はしでかしてしまったんだから・・・さぁ、出てってぇぇぇ!!」
「そう簡単に諦めるかよぉ!テメェは俺の金蔓だ・・・また俺の虜にしてやるよぉぉぉ!!」
男は、ジリジリ母に近付き、母は呼吸を荒くしながら後退りした。私は、母を援護するように男に掴みかかり、
「お母さんに近付くなぁぁ!」
「ウルセェェ、くそガキィィ!」
男に右手で振り払われた私を見た母は、慌てて台所に飛び込むと、出刃包丁を震える両手で握りしめ、
「で、出てってぇぇ!これ以上酷い事するならぁ・・・」
全裸で出刃包丁を構える母の姿に、男はこの場を逃げた方が良さそうだと判断したようで、
「恵美ぃ、このままで済むと思うなよ?お前は、もう俺から逃げられないんだからなぁぁ!」
男はそう捨て台詞を残し、慌てて玄関から飛び出して行った。私は慌てて玄関に鍵を掛け、母の下に戻ると、放心していた母はその場にヘナヘナ座り込み、心配した私が近付くと、
「勤ぅぅ、ゴメンねぇ・・・・ゴメンねぇぇ!」
母は号泣し、私の顔を豊満な胸に埋めさせながら謝り続けました。私は、母の豊満な胸に顔を埋め、幼子に戻ったかのように安心を得ていました。
「ウウン、僕がお母さんの言う通り、あんな奴に近付かなければ・・・僕の方こそ、ゴメンなさぁぁい!」
「勤のせいじゃないわ!お母さんが悪いの、あんな男に一時でも心を奪われる何て、私は、あなたの母親失格だわ・・・」
「お母さぁぁん!」
私達母子は互いに泣きながら、自分達が犯した卑猥な行動を謝り続けました・・・