揺れる保健室-4
途端、飛坂は顔を赤らめて固まってしまった。
彼をそうさせてしまったのは、保健室に女の子と二人きりという非日常的な状況のせいか。
それとも、彼が友美に対する想いを少しずつ自覚していったせいか。
とにかく、今の飛坂にはいつも通りに振る舞う余裕がなかったのである。
飛坂の、生唾を飲み込む音が響き渡り、握り締めた手のひらは汗でぐっしょり濡れている。
「……相馬」
名前を呼んでこちらを見る彼女の瞳は、潤んでとてもキラキラ輝いて。
その吸い込まれそうな瞳を見ていると、飛坂はさらに想いが溢れて来るのがハッキリとわかった。
それはまるでドンドン大きくなる風船のようだ。
飛坂の早まる鼓動なんて知らず、ただ彼の言葉を待つ友美。
だが、彼女のその何気無い表情一つにも潜んでいた色気のようなものは、その風船を破る針となり、飛坂の込み上げる衝動を一気に突き動かした。
「…………っ!」
刹那、スツールの脚が床を引きずる音が鳴り響く。
目の前には、飛坂の顔。そして一瞬だけの柔らかくも痺れる感触。
飛坂が友美の唇を奪ったのは、彼女が瞬きをするほんのわずかな間の出来事だった。
呆気に取られる彼女を見ようともせず、飛坂はただ、
「……ごめん」
と呟いた。
神妙な横顔。それはいつも爽やかに笑う飛坂とはまるで別人だった。
「と、飛坂……?」
無意識の内に友美は自分の唇に触れていた。
ここに、飛坂の唇が触れた。それが事実だと認識すると、途端に体温が上昇していく。
(あたし……飛坂にキスされちゃったの!?)
言いようのない照れ臭さが波のように友美の元へ押し寄せ、彼女は軽くパニックになりながら身体に掛けられていた掛け布団を口元までたぐり寄せた。