撮影-1
「タカさん!あの女どうっすかね?」
ビデオカメラを持った20歳そこそこの金髪男が、傍らの、長身で中肉中背、50歳くらいの色黒、
いかにも軽そう、いかにもホスト、一目で堅気ではない雰囲気をもった男に声をかける。
「あ?どれ?どの女?」
ホスト風のタカと呼ばれた男が言われた視線を向けると、ベンチコートを着た30代と見える女が歩いていた。
「あれか?
うーん…悪くはねえけど、ちょっと歳食ってねえか?
シン、お前は今日の企画は知ってるか?」
あきれたタカはシンと呼んでいた金髪男にさらに続ける、
「今回は若奥さんのママさんバレーだろ?!
若奥さんなら行って30までだろ〜が!
どう見ても30超えてんだろ?
どこ見てんだ?」
遠目で凝視しながら言うタカにシンは悪びれなく、言い返した、
「結構若いと思うんすけど…うちの母ちゃんよりも確実に若いっす!」
「あ?お前な…お前んとこの母ちゃんは幾つだよ?」
呆れながら言い返すタカを無視して、シンはさらに続けた。
「今日見たほとんどが、見栄えもしねぇ、歳食ったババアばっかだったし。
その中では一番良いし、若い方っすよ。
それにこの寒さっすよ。
ここで凍えながら待ってても空振りっす。
取敢えず、声だけ掛けてみましょうよ。
お願いしますよ、タカさん!」
珍しくシンの言い分に多少の現実感があったことを驚きながらタカはしぶしぶと受け入れ、
「しょうがねぇえなぁ…
でも、お前、編集でうまく30ってことにしろよ。
じゃ、行くか。
ホラ!カメラ、回せ。」
言いながら歩き出すタカを、カメラを手にしたシンが手早く、録画しながらついていく。
「痛たた…、ちょっと張り切り過ぎたかなぁ…」
市民体育館の女子トイレで、鏡に映った痛々しい手のあざを見ながら美佐子は独り言をもらした。
ひとしきりあざや傷を確認した後、捲ったベンチコートの袖を戻し、身支度を整えた。
11月のある日曜日。
美佐子が入っているバレーサークルは市民体育館で開催された地域大会に参加していた。
一、ニ回戦は盟友の亜沙美の活躍で大勝したものの、彼女が所要で帰宅した三回戦はあっけなく大敗してしまった。
特に表彰式もないのでメンバーは三々五々帰宅し、美佐子もトイレに寄った後、痛々しい手のあざをベンチコート越しにさすりながら駐車場に停めた車に向かった。
時刻は午後2時だった…
時計を見た美佐子は、日常生活を抱える主婦に戻り、
「夕飯は何にしようかしらね…ドリームタウンに寄って買い物してから帰ろうかなぁ…」
考え事をしながら駐車場を歩いていると、ふと周りの車のフロントガラスに映る自分の姿を見て気が付いた…
今日も亜沙美の提案に押し切られてブルマを着用して出場した美佐子は、長袖のトレシャツに、ブルマ、ハイソックス、スニーカーの試合着の上にベンチコートを着ているだけだと気付いた。
ひざ丈のロングコートから覗く、白のハイソックス…
一昔前の露出狂のように見え、
「こんな格好で買い物していたら露出狂の変態と間違われちゃうわね…ハハハ…
まずは家に帰りましょう!!」
自嘲気味に笑いながら、露出狂に間違われないようベンチコートの前のファスナーをしっかりと閉じ、車を探した。