優しいジゴロ-6
6.
JR大塚駅に程近い老舗の料亭の一人娘として、礼子は育った。
女子高を卒業すると、音楽好きな礼子は音大に進んだ。中学時代からピアノを習っていた。
「私はノダメなの」
レッスンはクラシック中心だったが、ジャズの好きな礼子はジャズ調のアドリブ演奏を好んだ。
音大を卒業すると、正規の音楽に興味の無い礼子の行く末を案じた両親は、料亭の跡取りとしての道を選ばせた。
両親は店の板長と結婚させた。
将来に特別の方針を持っていた訳でもない礼子は、素直に両親の希望に従った。
5年で結婚は破綻した。
礼子は店の仕事の傍ら、ピアノの稽古を続け、ジャズにのめり込んでいった。
一方の夫は、まったく音楽に興味はなく、休みには競艇、競馬に明け暮れた。
夫婦の亀裂は深まるばかり。ついには夫は街金融の借金に追われ、店の金を横領して行方をくらました。
若女将の仕事の合間を縫って、唯一の趣味、ジャズピアノの稽古に憂さを晴らした。
偶然飛び込んだ北池袋のクラブで、あまり上手とは言えないが、ノスタルジックなコンボ演奏をするバンドに出会った。
日曜休日の前の土曜日の夜は、ジントニックをすすりながら、ソロのアドリブに疲れを癒した。
フロアマネージャでもない、用心棒ともいえない不思議な男に気がついた。
男の周りにはパートナーの居ない女客が数人たむろして、交替でダンスをしているが、ラストの曲が終わるとその女達の一人と連れ立って店を出て行く。
決まった女が居る様子はなく、その時その時で相手が変わる。
(そうか、・・・ホストもどきか?)
わが身を振り返ってみれば、夫に逃げられ空閨を余儀なくされているが、ホストクラブに通い、ホストに入れ揚げるほどの時間も金も無い。そういう女は、どこにでも居るんだ。上手いこと考えたものね。
譲二と言うその男が、声を掛けてきた。
夫が出て行って、空閨に悶えると言うほどではないが、寂しい夜が続いている。
わざわざ男漁りをする気も無いが、向こうから来るなら誘いに乗ってみるのも悪くはない。相手がプロなら、若干の金で事は済む。